助け合い
「ハァ……ハァ……ハァ……」
路地裏を走り続けること数分。
群衆の声は遠く離れ、誰かが追いかけてくる気配は無い。
――逃げきった?
確証は無くともひとまずは安心と考え、ウェンディは深く息を吐く。
――……あれ? そういえば、アズは?
心に余裕が生まれると同時に、一緒に居た筈の友の姿が見えないことに気付いた。
一瞬、燃え盛る家に置いて来てしまったのではという考えが浮かぶが、すぐにその時点で姿が無かったことを思い出し振り払う。
――なら、どこに?
「…………おーい」
――もしかして、違う場所に放り出された?
「……おーい?」
――探しに行きたいけど、この街でうかつに動き回るのも……。
「おーい、そこの人ー! ……ゲホッ」
「んっ!?」
考え事をしていたウェンディは、近くから聞こえる掠れた声に遅れて気付く。
慌てて周囲を見回すと、家の壁に寄りかかって座る、一つの小さな人影を見つけた。
「あ、気付いた。助けてくれなーい?:
「助ける?」
その人物の服は酷くボロボロで、髪は汚く、頬は痩せこけている。
助けを求めて僅かに地面から上げられた手は骨のように細く、力を振り絞るように震えており、どう見ても餓死寸前の状態だ。
「え、あっ、どうしよう!? 食べ物!? 食べ物、どこかから持ってきて……」
「あっはは。ゲホッ! ……いいよ、そんなことしなくて。それより、私のコートのポケットのどれかに、非常時用の食べ物があるんだ。探してくれない?」
ウェンディは急いで駆け寄り、言われた通りにコートのポケットを探す。
その内の一つに、瓶に入れられた無数の小さなブロック状の食べ物を見つけた。
「お、あったあった。んじゃ、食べさせて」
「……本当に食べていいやつなの、コレ?」
その食べ物は何とも食欲を削られるどす黒い色をしており、瓶を開けた瞬間、鼻を衝く異臭が周囲を漂う。
「いいから、はよはよ。あーん」
「……しらないよ?」
急かされるままにウェンディは瓶の中の一つをつまんで取り出すと、開かれた小さな口へと移動させる。
食べ物を放り込まれは口は、ボリボリと勢いよくそれを咀嚼し————
「ンンッ!」
その喉の奥から、不味さに耐えるような声を漏らした。
「ふー……」
「大丈夫?」
「ん? あー、へーきへーき。……よいしょっと。ありがとね、お陰で命拾いした」
立ち上がりながらお礼を述べた男か女か判別できないその人物は、大きく伸びをした後、ウェンディ野持っている瓶を指さす。
「お礼としてはアレだけど、いる? それ」
「いえ結構です」
「あっはは! だーよねー! ……けど、あなたのお陰で飢え死にしなかったのも事実。……何かないか? 私があげられるもの……何か………………あ」
何かを閃いた顔と共に、人差し指でさしたのは真上。
そこには、遮る雲の無い満点の星空が広がっていた。
「占星術とはちょっと違うけど、星を使ったおまじないが得意でさ。何か欲しいものはない? 方角と、ざっくりとした距離くらいは分かるよ」
「!」
それは、まさしく今ウェンディが欲していた情報。
やみくもに動けない以上、仲間の位置が分かるのはこの上なくありがたい。
「ぜひお願い!」
「やった。で? 何探す?」
「友達を三人お願い。クールなこと、ハイテンションな子と、ヤバい子。……あ、あと全員魔女!」
「――—魔女?」
「え? ……あっ」
妙な反応を見て、ウェンディは思い出す。
先程出会った人たちの、魔女と判断した瞬間に殺意が籠った瞳を。
――逃げる? いや、でも、せっかくの手がかり……!
「魔女……魔女か」
独り言を呟くその姿に、ウェンディは身構えて————
「くくっ……あっははははは!!」
突然の大笑いに、呆然としながら頭の上に疑問符を浮かべた。
腹を抱えた笑いはしばらく続き、やがて息を切らしながら止まる。
「はーっ……ごめんごめん。じゃ、さっそくやろっか。お仲間探し」
「――――ん。これで三人だね」
まじないが始まってから数分後。
三人の居る方角と大体の距離を教えてもらい、ウェンディは深く頭を下げた。
「あありがとう。助かったよ」
「こちらこそ。また会えたらよろしくね、命の恩人さん。それじゃ」
「あ、待って!」
「ん?」
去ろうとした背中が、掛けられた声に歩みを止める。
「名前、教えて」
振り返ったその顔は意外な言葉を聞いたような表情で、もう一度愉快そうに笑った。
「————ああ、そっか。また会うなら必要か。名前、ねぇ……じゃあ、『アルカナ』で」
「あ、そうそう。もうすぐ世界が終わるから、お友達探しは急いでね、魔女さん」




