赤と白
炎。
ウェンディが放り出されたのは、燃え盛る建物の中だった。
「え、は!? なんてとこに出してくれてんの、先生!?」
木造の家は焦げて崩れ、原型を留めていない。
屋根には何かが落ちて来たかのような大きな穴が空き、その真下のウェンディが立つ場所にはクレーターが出来ている。
クレーター内には炎が無いお陰で焼け死なずに済んでいるが、それも時間の問題だった。
「ん!?」
背後から聞こえてくる、ギシギシと何かが動く音。
振り返ったウェンディの視界に映ったのは、自身の元へと倒れてくる真っ黒の柱だ。
――あっぶな!
ギリギリでの回避に成功するも、危機はそれだけで終わらない。
音は未だ続き、残る他の柱もまた、今にも倒れてきそうな状態である。
――ヤバいッ! 逃げなきゃッ!
唯一プラスである要素は、穴の空いた天井から雪が舞い込んでいること。
少なくない量の雪によって炎の勢いが多少抑えられており、魔力での身体強化と合わせれば脱出することは可能だ。
もっとも、建物が完全に崩れるのに間に合えば、だが。
「――――んっ?」
走り出そうとしたウェンディは、あるものを見て足を止めた。
それは、一つの鏡。
フレームに花の紋様が刻まれ、全てが圧し潰されたクレーターの中で唯一、その形を保っている。
だが、それだけだ。
一秒の遅れが生死に直結するその状況で気にするものではなく、ましてや拾おうとするなんてもっての外。
そんなことはウェンディも分かっている。
分っている、が――――
「……ああ、もうっ!」
自分の中で叫ぶ「置いてくべきではない」という直感に、迷った末に拾う道を選ぶ。
鏡を脇に抱え、今度こそ炎の先の出口を目指して走り出した。
「熱ッ!痛ッ! 危なッ!」
圧死も焼死も回避し、たどり着くは雪景色。
最後の障害である瓦礫の山を飛び越え、ウェンディは雪で覆われた未知の上へと着地した。
「っと。……ん?」
そして、気付く。
脱出した先、雪が降り続ける路上に、燃える家を囲んで大勢の人間が居ることを。
彼ら全員が自身を見ており、その目に敵意を宿していることを。
「……誰か、出て来たぞ」
「女の子だ」
「じゃあ————」
「魔女か?」
誰かがその言葉を呟いた瞬間、彼らの敵意が一層強まる。
殺意と呼べる域にまで。
――何か、ヤバいッ!
身の危険を感じ取り、ウェンディは人の壁が途切れている方向へと走り出す。
何人かは行く道を塞ごうと動く反応を見せるも、速度に大きな差があるため追いつかれることはない。
「逃げたぞ! 魔女が逃げた!」
「追え! 捕まえろ!」
背後から聞こえてくる声は徐々に数を増し、強い熱を帯びていく。
絶対に掴まってはいけないという確信と共に湧く恐怖。
雪に足を取られないよう細心の注意を払いながら、ウェンディは人が大勢入ることは出来ない路地裏へと逃げ込んだ。




