第四
魔女であっても、冬は寒い。
息は白く染まり、纏う衣服の量が増え、体は常に暖を求める。
そして――――
「寒い中呼び出して悪いね。けど、境界科に属してる≧、これは避けては通れなゲホッゴホッ!」
健康管理を怠れば、簡単に体調を崩す。
軽くはない咳をするアザリエに、ウェンディは若干距離を取りながら心配の視線を向ける。
「大丈夫ですか、先生。風邪?」
「ゲホッ! ……いや、風邪じゃない」
「……もしかして、コタツの中で寝ました?」
「正解。ゲホッ」
「…………」
果たしてコタツの中で寝ていた理由は教職の忙しさのせいか、あるいは単純に怠惰によるものか。
後者の方が有り得るとつい思ってしまったウェンディは口を閉じ、信用しなかった気まずさから目を逸らす。
そんな心の内を知るわけも無く、アザリエは話の続きを語り始める。
「異界、繋がった。久しぶり。気を付けて、行け」
咳を我慢しているせいか、最小限の言葉で済ませられる説明。
ウェンディはそれを聞き終わると、ふと気になったことを挙手して尋ねた。
「先生。他の二人は?」
今その場にいるのは、アザリエ、ウェンディ、そしてウェンディの後ろで黙っているアズだけ。
残りのノアとラマの姿は無く、一年の半分が不在である。
「ああ。……先、行った」
「え?」
「お前らも、はやく」
『行った」その言葉が指す意味を考える暇も無く、アザリエはウェンディたちの背を押し鏡に近づけていく。
「行った? 行ったって、もしかして、異界にーーーー」
「行けば、分かる……!」
言葉は遮られ、体は魔術によって押し出される。
「ちょっ!?」
心の準備すら出来ないまま、二人は異界へと吸い込まれていった。
魔女を飲み込んだことによる鏡の輝きは直ぐに収まり、その鏡面にゆらめく少女のシルエットを映す。
それをアザリエはじっと見つめながら、「はぁ」と疲れの籠ったため息を吐いた。
「――――それで、いつまで隠れてんの?」
席はなく、言葉は流ちょう。
問いかけたのは、先ほどまでウェンディたちがいた場所。
その空間が突然歪み、一秒前まで無かったものを見せる。
「隠れてたつもりは無いんだけど」
少女の声であるが、アザリエに聞き覚えは無かった。
声だけでなく、白髪の長い髪も、真っ白な肌も、黒いコートも見覚えは無い。
分るのは、ただ一つ。
彼女が、確実に魔女である、ということだけ。
「で? 誰、アンタ」
「誰。誰か……」
「――――魔女の遺品」
少し迷うようにして答えた少女。
その返答にアザリエは眉をひそめようとし、気付いた。
少女の立つ場所、その足元に亀裂が走っていることに。
「(あーーーー)」
亀裂は瞬きする間にアザリエの立つ場所にまで広がる。
それがアザリエの体にまで走り、首から下の感覚が消え去った。
「……ああ。あと……師匠とも、呼ばれてたっけ」
首が落下していく感覚も直ぐに消え、視界は光を失って意識は薄れていく中、その言葉が最後にアザリエに聞こえた音だった。




