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異界の鏡  作者: リーグス
73/80

第四

 魔女であっても、冬は寒い。

 息は白く染まり、纏う衣服の量が増え、体は常に暖を求める。

 そして――――


「寒い中呼び出して悪いね。けど、境界科に属してる≧、これは避けては通れなゲホッゴホッ!」


 健康管理を怠れば、簡単に体調を崩す。

 軽くはない咳をするアザリエに、ウェンディは若干距離を取りながら心配の視線を向ける。


「大丈夫ですか、先生。風邪?」

「ゲホッ! ……いや、風邪じゃない」

「……もしかして、コタツの中で寝ました?」

「正解。ゲホッ」

「…………」


 果たしてコタツの中で寝ていた理由は教職の忙しさのせいか、あるいは単純に怠惰によるものか。

 後者の方が有り得るとつい思ってしまったウェンディは口を閉じ、信用しなかった気まずさから目を逸らす。

 そんな心の内を知るわけも無く、アザリエは話の続きを語り始める。


「異界、繋がった。久しぶり。気を付けて、行け」


 咳を我慢しているせいか、最小限の言葉で済ませられる説明。

 ウェンディはそれを聞き終わると、ふと気になったことを挙手して尋ねた。


「先生。他の二人は?」


 今その場にいるのは、アザリエ、ウェンディ、そしてウェンディの後ろで黙っているアズだけ。

 残りのノアとラマの姿は無く、一年の半分が不在である。


「ああ。……先、行った」

「え?」

「お前らも、はやく」


 『行った」その言葉が指す意味を考える暇も無く、アザリエはウェンディたちの背を押し鏡に近づけていく。

 

「行った? 行ったって、もしかして、異界にーーーー」

「行けば、分かる……!」


 言葉は遮られ、体は魔術によって押し出される。

 

「ちょっ!?」


 心の準備すら出来ないまま、二人は異界へと吸い込まれていった。








 魔女を飲み込んだことによる鏡の輝きは直ぐに収まり、その鏡面にゆらめく少女のシルエットを映す。

 それをアザリエはじっと見つめながら、「はぁ」と疲れの籠ったため息を吐いた。


「――――それで、いつまで隠れてんの?」


 席はなく、言葉は流ちょう。

 問いかけたのは、先ほどまでウェンディたちがいた場所。

 その空間が突然歪み、一秒前まで無かったものを見せる。


「隠れてたつもりは無いんだけど」


 少女の声であるが、アザリエに聞き覚えは無かった。

 声だけでなく、白髪の長い髪も、真っ白な肌も、黒いコートも見覚えは無い。

 分るのは、ただ一つ。

 彼女が、確実に魔女である、ということだけ。


「で? 誰、アンタ」

「誰。誰か……」


「――――魔女の遺品」


 少し迷うようにして答えた少女。

 その返答にアザリエは眉をひそめようとし、気付いた。

 少女の立つ場所、その足元に亀裂が走っていることに。


「(あーーーー)」


 亀裂は瞬きする間にアザリエの立つ場所にまで広がる。

 それがアザリエの体にまで走り、首から下の感覚が消え去った。


「……ああ。あと……師匠とも、呼ばれてたっけ」


 首が落下していく感覚も直ぐに消え、視界は光を失って意識は薄れていく中、その言葉が最後にアザリエに聞こえた音だった。

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