まだ会える友たちと
「へー。二年の先輩に、ホロアとの合体かぁ。……申し訳なくなっちゃうな、こっちただの海水浴で」
「いいんじゃない? 本来バカンスしにここ来たんだし」
墓地から砂浜へと戻ったウェンディは、休憩中だったノアへ事の顛末を説明していた。
一緒に戻ってきたアズはノアの代わりにビーチバレーに参加しており、パラソルの影の下で二人はその光景を眺める。
――…………やっぱり、気になる。
そんな中、ウェンディには説明中からずっと気になっていたことが一つ。
「……何食べてるの? それ」
隣に座るノアの手には、焼いた触手のようなものが握られている。
タコでもイカでもない歪な形のその肉塊に、ウェンディは警戒と味への好奇心を込めた視線を向けた。
「食べる? 皆食べないからいっぱい余ってるよ」
「食べるけど! それはそれとしてちょっと怖いんだよ! 毒みたいなの入ってないソレ!?」
「入ってない入ってない。……たぶん」
「たぶん!?」
――なんか、この嫌な感じ覚えがあるんだよなあ……。
――海にあった不気味な感じも無くなってるし……まさか……。
「大丈夫だって。生きてたコレを倒したとき普通の魚に食べさせて毒見したから」
「いま普通の魚って言った?」
「魔術的にも実験的にも安全が保障された食べ物です。あっても腹下す程度。生産者の見た目とは真逆の普通の食材です」
「それ遠回しに調理前はヤバい見た目だったって言ってない?」
質問に無回答のまま焼き触手が渡され、ウェンディは二つの意味でゴクリと喉を鳴らす。
見た目のグロさに抵抗を感じながらも、戦闘後ゆえの空腹に背を押され口を近付ける。
震える口をゆっくりと開き、覚悟を胸に未知の肉へ噛みついた。
「…………悪くない」
「でしょ?」
自慢げに同意するノア。
その手には大量の触手が乗せられた皿が持たれており、自身の食欲を理解されてることにウェンディは若干恥ずかしさを覚える。
「ブニブニかと思ったら引き締まってて……あ、でも喉乾くな、コレ」
「うんうん。おじさん達が酒のツマミに欲しがりそう」
「おーい!!」
「「ん?」」
二人を呼ぶ声の主は、ビーチバレーで遊んでいる最中のラマ。
敵陣営のコートではアズとアザリエが倒れており、空気を貪るように呼吸していた。
「体力無しの二人がリタイヤしたから、代わりに入ってくれなーい!?」
「無いワケじゃあ……ない……。現役生徒と……教員じゃ……平均値が、違う……」
「子供が、誰も彼も体力馬鹿だと思わないでください……。慣れてない子も……いるんです……」
その様子を見たウェンディは小さく笑いながら腰を上げ、ノアも仕方ないといった様子で立ち上がる。
互いに口に入れた触手を飲み込み、日光で熱された砂浜へ一歩踏み出す。
「何点マッチ?」
「10!」
「先輩、勝ったらアイス買ってください」
「いいよ。勝てたらね、ウェンディ」
「ありがとね。お墓まで作ってもらっちゃって」
セインの名が書かれた墓の前でヨモギは両手を合わせ、同じく隣で拝んでいる墓守の女性へ語り掛ける。
「それは別にいいんだけど……」
「? いいんだけど?」
「アズくんって子。注意してあげてね」
「…………記憶で何か見た?」
ヨモギの問いに墓守の女性は言葉を詰まらせ、選ぶように口から吐き出す。
「視られちゃったから言えないけど……少なくても、次の異界にはついて行ってあげた方がいいと思う」
「どっちかが、友達を手に掛けないためにも」