セイン
「消し飛ぶかと思った」
「ごめんなさい、やっぱりやり過ぎました!」
ウェンディが放った魔力の光線を受けたセインは、ボロボロになりながらも形を保っていた。
だが、存在感は明らかに薄らいでいたためウェンディはひたすら頭を下げ続ける。
「でも、いい技だったよ。残ってた呪いが無くなっちゃうくらいには」
その言葉にセインの足へと視線を向け、確かに黒い膜のようなものが消えていることに気付く。
それと同時に、継続していたウェンディとホロアの融合状態が解けた。
「わっ。————おつかれ、ホロア」
「ギィ……」
ぐったりとした様子でウェンディの両手の上に寝そべるホロア。
見た限り損傷は見受けられず、ただ魔力を消耗した疲れだと安心するその頭へ、じっと見ていたセインの手が伸びる。
そのままウェンディの頭に付いていた髪飾りを取ると、指先から放った魔力を纏わせた。
「やっぱり、この髪飾りが君たちの繋がりを強めてる」
「えっ」
「元からそのために作られてたのかな? 調整しようと思ったら、ウェンディ用としか思えないほど作り込まれてて驚いたよ。たぶん、使っていくうちに自動で調整されてく使用なんだと思……え、どうしたの!?」
驚き慌てるセインの言葉に、ウェンディは自身の瞳から一筋の涙が流れていることに気付く。
「うわっ。すいません、ちょっと……諸事情というか。すぐに止めますんで!」
「―———いや、いいよ。ここには幽霊しか居ないんだし、ゆっくり泣きな」
「…………すいません」
先輩の言葉に甘え、無理に止めることを辞めたウェンディは裾で顔を隠してじっとする。
しばらくして見せた顔は、目元が赤く染まっていた。
「もう大丈夫?」
問いと共に差し出された髪飾りを受け取り、ウェンディは微笑みながら頷く。
「はい。もう大丈夫です」
返されえた答えにセインは安心した表情を浮かべ、呪いが解けた足で一歩前へと踏み出す。
その体は徐々に透け始めており、薄らいでいた気配もより小さくなっている。
成仏————その現象を見たことは無いウェンディであっても、別れの時間が来たことは理解できた。
「本当は、もっと色々話したかったんだけど……一つにまとめるね」
差し出された右手がウェンディの頭へ向かい、髪の上から優しくなでる。
「がんばれ」
「………………はい!」
再び涙かこぼれそうになるのをこらえ、応援に返すは精一杯の返事。
――言ったからね、もう大丈夫だって。
「…………あ、そうだ」
「?」
「伝言、お願いできる?」
「あれ、もう終わったの?」
閉じていた先に広がっていたのは、青々とした空と、遠くを見つめていたヨモギが気付き見下ろす姿。
ウェンディはあお向けに倒れた体を起き上がらせないまま、つい今聞いたばかりの言葉を繰り返した。
「『ありがとう、先輩』……だって」
ヨモギの顔から笑みが消えるが、ウェンディは気付かないフリをして隣に寝ているアズへ視線を移す。
「…………先輩はたいへんだよ、まったく」
とても小さなその声は、墓地の静かさに溶けて消えた。