二年の先輩
引き伸ばされた景色が元に戻り、見覚えのない世界を映し出す。
一人その場所へと連れて来られたウェンディは、誰か居ないかと辺りを見回した。
「ここは…………」
「いらっしゃい」
「!」
声がしたのは真後ろ、少し離れた地面の近く。
振り返った先には、真っ白な地面に座る少女の姿があった。
澄んだ青い髪と瞳、両手で支えている長い杖が特徴であり、はにかんだ顔に敵意は表れてない。
「……えっと……ごめん、名前教えてください」
「あ、はい。ウェンディです」
「はじめましてウェンディ。私はセイン。一応、先輩になります……四か月で死んだけど」
斜め下を向き自虐的に笑う先輩に、ウェンディは抱いていた警戒心を僅かに緩める。
そして、自身もまた真っ白の地面へと座ると、同じ境界科の魔女どうしで目線を合わせた。
「はじめまして、先輩」
「んっ。んー……うん。いいね、先輩って呼ばれるの。思ってたより」
「私もよかったです。思ってたよりもマトモそうな人で」
「なんでそんな先入観……あー、そっかぁ。あの先輩たちかぁ」
一瞬で風評被害の原因を察したセインは、申し訳なさそうな表情を浮かべて顔を手で覆う。
「……それで、なんで私だけをここに連れて来たんですか?」
苦笑いの後に取り出した本題に、セインも表情を引き締める。
決意を固めるように瞼を閉じると、ゆっくりとその口を開いた。
「誰かが、君を使って何かを企んでる」
「私を?」
「うん。そして、おそらく境界科はソイツの目的のために作られた」
「!?」
想像よりも大きな話に、ウェンディは驚き言葉を出すのを忘れる。
――目的のためにって……境界科はここ数年で作られたわけじゃない筈。
――少なくても、偶然見つけられた私が連れて来られるよりも前だ。時系列が合わない。
「本当に私ですか? 誰かと間違えたりとかは?」
「……ごめん、断言は出来ない。この情報は私が死んだ異界の異物から得た情報で、それも記憶の覗き見のようなものだったから」
「そうですか……」
「……雨の中、崩れた施設から出て森に向かわなかった?」
「!」
――……なるほど。これは、信じるしかないなぁ。
目を見開いたウェンディは、悲しさを乗せた微笑みを浮かべながら視線を下へと下げる。
だが、すぐに勢いよく顔を上げると、元の笑顔をセインへと見せた。
「あいがとうございます! 教えてもらって」
「そ、そう?」
心配そうに見ていたセインは急な笑顔に驚くが、詮索はせずに話を終わらせる、
その気づかいにウェンディはありがたさを感じ――――
「それじゃあ、始めよっか」
「? 何をです?」
「手合わせ!」
立ち上がりながら述べられたバトル宣言に、数秒思考を止めた。
――…………………………ん?
「ほら立って。一秒したら始めるよ」
「えっ」
話の流れを飲み込めないウェンディへと放たれる、一切手加減のない魔力砲。
開幕の合図を間一髪で避けながら、無理やり再起動させた頭で理解する。
――うん……そうだった。この人も先輩だった。
「……よろしくお願いします、先輩!」
最後の時間すら後輩のために使ってくれる、優しい先輩だと。
「全力で来てね、後輩」