最奥の層へ
「鍵?」
「うん、それがないと先に進めないって……ん?」
「?」
救い出したアズへ状況の説明をしていたウェンディは、頭上から聞こえてきた音に天井を見上げる。
二人の視線が集まった先で照明が揺れ、埃が舞い落ち――――
「その通り!」
崩れ落ちた天井の壁と共に、墓守りの女性が落下して現れた。
「ここはアズくんの記憶だから、通すも通さないも意思一つだよ。ウェンディくんに『先に行って良し!』って心の中で唱えてあげて」
「……どちらさま?」
「管理人さん。私たちが会いに行ったお墓の。あと、一応……味方?」
「ん? 一応?」
警戒するアズへの説明に、当事者は疑問符を浮かべ首をかしげる。
「いや、助けてもらえたのはありがたいですし、状況説明も助かりました」
「なぜ敬語?」
「でも……境界科の先輩が関わってるってだけでどうしても警戒しちゃって!」
「あー……。それは分かる」
過去二度による先輩からの同意を求めない無茶な要求。
どうせ今回もヤバい敵と戦わされるんだろうなぁという諦めに似た予感が、ウェンディの初対面に対する警戒心を高めていた。
「まぁ、警戒されててもされてなくても、私が同行できるのはここまでだから別にいいけど」
「ここまで? なぜ?」
「セイン君が君しか求めてないから。ほら、さっさと来いって急かしてきてる」
墓守の女性が指さした先にあるは、空中に浮かぶ見覚えのある鍵。
それが記憶の世界を移動する際に使った物と同一であるとウェンディが気付いた時には、周囲の景色は変化を始めていた。
「え? え!? 体から出てきたこの鍵なに!? 」
「呪いから解放されたら記憶の部屋の主導権奪えちゃうのかぁ。すごいなぁ、魔女の方々は」
「いや、ちょっ。あ、せめてホロアだけでも――――」
鍵から放たれた光の中でウェンディは二人と離されるのを感じ、近くに居たホロアへと手を伸ばす。
掴んだ感覚を確かめる間も無く、満たされた水が開いた栓へと落ちるようにウェンディの体は遥か彼方へと引き寄せられた。
「んー、やっぱりウェンディくんだけ連れてかれたか」
白一色の何もない景色の中、墓守の女性は上を見上げ言葉をこぼす。
そして、同じく取り残されたアズへと視線を移すと、メガネの奥の目を細めて問いかける。
「それで、君はどんな契約をしたのかな」
「………………」
「したんでしょ、悪魔への願い事」
「そんな体になってまで、君は何を欲したの?」