表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異界の魔女  作者: リーグス
67/72

転機の記憶

 互いの距離は約八メートル。

 小細工など必要なく、先に攻撃をと抱かせた方に勝ちが傾く距離。

 ゆえに、どちらも思考の時間を作らずに行動に出た。

 ウェンディの直進とアズの出現させた手が向かい合い、相手を潰す勢いで直進する。

          ――――「私の出す”手”の数は指定した対象の数と一緒なんだ」

          ――――「だから、一対一は既に”手”を使ってる場合でもない限り厳しいんだよね」

 過去にアズの語った言葉の通り、出現した手はウェンディを対象とした一本だけ。

 顔へ向けて伸びて来たソレの手首を掴み、側転の要領で飛び乗り腕を足場とする。

 そのまま加速し背を屈め、今度はウェンディの手がアズの顔へ伸びた。


「!?」

 

 指し伸ばした右腕が、触れる直前で止まる。

 ――なんで……。

 ウェンディの体にあるのは、無数の手に掴まれる感覚。

 回避した腕は未だ足場であり、なにより本数が合わない。

 手が伸びて来た背後を振り返ったとき、何を対象にして腕を増やしたのかに気付いた。

 ――本か!

 床に落ちている本から真黒の手が伸びており、掴んだウェンディの体を握り潰そうと力を強める。


「ッ! ……こン、のッ!」


 痛みを怒りへ変換し前へ進もうとするが、束ねられた腕による静止はそれを許さない。

 一歩も動けないまま、アズの振り上げた腕を睨みつける。

 非情に、冷徹に、魔女の拳が振り下ろされた。






 ひどく冷たい、雨の日の夜。

 森の中で出会ったのは、ずぶ濡れの私を見下ろす二色の瞳。

 

「生きてる?」


 手すら差し伸べず、ただ確認するだけの冷たい言葉だったけれど。

 冷え切った体の内で、胸に熱い何かが灯ったのが分かった。

 

 緑と白の髪を見ながら、心の内に立てた誓い。

 『絶対に、魔女になってこの人と――――』





 

「!?」


 頭部に魔力を集めて衝撃に備えていたウェンディは、自身に向かっていた腕が途中で止まったことに驚く。

 

「ホ……ロア……」


 開いたアズの口から洩れる、使い魔を呼ぶ震えた声。

 その声に応じるように先ほどまで居なかった筈のホロアがウェンディの頭上へと現れ、拘束していた手の一本を吹き飛ばす。

 ――!

 ほんのわずかに緩くなった右腕の静止。

 その一瞬のチャンスを逃すことなく、ウェンディは伸ばしていた右腕を友へと伸ばす。

 顔ではなく、振り下ろす途中で止まった右手へと。


「生きてる?」

「――――おかげさまで」


 引き寄せた体から、覆い被さっていた黒が剥がれる。

 開いた瞼の先でウェンディを見たアズは、懐かしそうに微笑んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ