妖怪の街
そこは妖怪の街。
数日前の暴動で傷を負った建物も妖も徐々に回復し、賑わいが戻りつつあった。
そんな復興中の街の中に、一番の賑わいを奏でる店が一つ。
「女将さーん! 注文おねがーい!」
「はいはーい!」
その居酒屋では同じ姿の妖が女将と呼ばれ、昼夜問わず癒しを求めてやって来る客をさばき続けている。
そんな分身だらけの接客の中に三つほど混じる、異なる姿の従業員。
その内の一つは、妖しか居ないはずの世界では珍しい人間だ。
「スミレちゃん、こっちも注文お願い!」
「あ、はい! ヘビさま、今入ってきたお客さんにお冷お願い!」
「ん、分かった」
「結衣、お客に混じって食べない!」
「……食べて、ないよ?」
「うそつけ今口に枝豆咥えてたでしょうがっ」
女将の娘の結衣と、人間のスミレ。
その二人は常連にとっては馴染みのある顔ぶれだったが、暴動後から働き始めたヘビさまは顔を似たことすらなく働き始めは常に視線が集まっていた。
だが、今では表情が乏しいながらも上手な聞き手として受け入れられ、居酒屋の空気へと溶け込んだ。
「そういやさ、なんでヘビさまなの? そういう名前?」
「いや、最初はもっと長い名前だったんだけど、スミレが呼べないからこれにしたの。涙目で可愛かったなぁ」
「へぇー。見てみたかったなぁ」
「私ももう一回見たいなぁ」
「見せませんよ?」
結衣に倣ってさぼり方を学んだヘビさまが、「働いてください」とスミレに怒られ椅子からはがされる。
その光景もまた酒の肴となり、訪れた妖の疲労を温かく癒した。
新しく生まれた、妖と人の日常として。
「結衣ちゃん。頭にそんな角生えてたっけ?」
「この前生えた」
「あ、生えたんだ。……痛くないの?}
「全然。お星さまが、私のために調整してくれたから」
「へー?」