異界
優しい光に満たされた道を抜け、ウェンディは空へと放り出された。
「わ、あっ……痛っ!」
高くはなくても硬い地面に叩きつけられ、白い肌が赤くにじむ。
顔をさすりつつ涙目になりながら顔を上げると、驚きからその瞳が大きく見開かれる。
「ー? -ー―-、――ー・?」
不可思議な音を奏でるのは、球体にアームを取り付けた鉄の塊。
一番上に付けられた円盤がウェンディの方へ向くと、球体の中央で点滅していた緑の光が赤へと変化する。
そして――――
「え?」
その球体の体のいたる箇所から穴が開き、銃を構えたアームが伸び出した。
「ウソぉ!?」
顔の痛みをこらえ、その場から最短最速で少し先にある分かれ道まで走るウェンディ。
なんとかハチの巣にならずに死角へと逃げ込め、服の端を銃弾が貫いたことに鼓動を荒げる胸をなでおろす。
――どうするか……このまま逃げるか、アレを倒すか。
――仲間を呼ばれても嫌だけど、今ドコにいるのかも分からずに逃げるのもなぁ。
選択に時間は残されておらず、ウェンディは僅かでも生存の確立が高いのはどちらか思考する。
そして、選択を終え、敵を倒すために動き出す。
『お、やってるやってる』
今まさに仕掛けるといったタイミングで脳内に声が響き、集中していたウェンディは思わずビクリと跳ねた。
『い~反応だね』
「いやタイミング! 今取り込み中なんだけど!?」
『まあ落ち着きなって。してないでしょ、足音』
「…………」
「だれのせいだと」とツッコミを入れかけるも、確かに移動音がしないことに口をつぐむ。
「確かに……」
『その個体は脚部を破損しているみたいだね。追撃は来ないけど迎撃準備万端……て、どこ行くの?』
「どこって、あの敵が追いかけて来ないなら迂回路を探さなきゃ。新手と挟み撃ちされる心配も無くなったわけだし」
『あー。……ウェンディ君、少し授業をしてあげます』
「結構です」
『まぁまぁ、そう言わずに』
――いきなり別世界に放り込んだ人間の言うことを聞くわけ――――
『その通路通らないと、こっちに帰れません』
「……は?」
『正確にいうと、その通路の先にある部屋に置かれてる”電池”を回収しないと一生その世界に在住することになっちゃいますね』
――この先輩、帰ったら一発殴ろう。
静かな怒りとともに拳を握るウェンディの脳内で、小さな笑い声が木霊する。
とりあえず元の位置まで戻ると、なにやら興奮している声に意識を向けた。
『”異界”……君が鏡で飛んだ別世界には一つ、"異物"と呼ばれる物がある。私たち境界科はそれを回収するのが役目だから、それが達成出来てないなら帰れないんだよね』
「……本当に、ここ以外に道はないんですか?」
『うん。ない』
その言葉にウェンディは手で顔を覆い、唸り、大きなため息を吐くと、用意していた瓦礫を拾い上げる。
そのっ瓦礫を無造作を投げ捨てると、思い銃声が通路を震わせた。
だが、狙われた瓦礫はハチの巣にされるよりも速くその形を失う。
ウェンディの仕掛けにより、瓦礫が空中で爆発したのだ。
濃い煙が通路を埋め尽くし、視界を奪われた敵は動きを止める。
その隙にウェンディは煙の中を疾走すると、手に持ったナイフに魔力を纏わせ円盤を砕いた。
「アレが私を捉えてから攻撃を開始したってことは、アレが探知機能の筈」という推測は正しく、敵は銃を構えたままその場に静止する。
『お見事!』
「どうも。……やめとこう、爆発したら怖いし」
敵の持っていた銃に視線を向けていたウェンディだが、奪うのは危険と諦めて歩き出す。
その廊下の先、目的の”異物”がある場所へと。
『さぁ、いったいどんな大物がでるかな?』