鷲と猫
スミレと結衣の二人を巨大な足で捕まえた鷲の妖は、街の西へと向けて翼を羽ばたかせる。
「ふっ、ふふふっ! 懐かしいのう。懐かしいのう! 幾年ぶりの大規模な争い! ……ああっ、心躍るのう!!
視線を下げた先に映った壊れた街と広がる炎、そして西と東の住民たちによる攻防に、恍惚した表情で鷲の妖は叫び声を轟かせた。
そして、高度を落とすと同時に速度を上げ、西の街にぽっかりと空いた巨大な穴へと滑空する。
その、背中に――――
「――――あ?」
僅かに感じた悪寒。
それが仲間の冬の妖のものではないことに気付いたときには、”それ”はすぐ背後へと迫っていた。
翼の感覚が無くなったと気付いた瞬間には腕に傷が生まれ、痛みを感じると同時に走る頬からの衝撃。
あまりの突然なことに何が起きたのか理解できないまま、鷲の妖は受け身すら取れず地面へと叩きつけられた。
「(なんだ……? なにが起きた……!?)」
崩れ落ちた瓦礫を押しのけながら、鷲の妖は先ほどまで自分がいた空を見上げる。
そこに居たのは、翼も無しに何もない宙に立つ一匹の獣。
原型は人でありながら部分的に人外へと変じた姿は妖を思わせるが、それが自分たちと同族ではないことを鷲の妖は理解していた。
人と妖、その二つが混ざり合った異質な気配が、断たれた翼をざわつかせる。
「随分と気色の悪い敵が来たものだ。……返してくれんか? その人間」
眉間に表れるほどの怒りとともに翼と腕を治し、乱入者に奪われたスミレを指さす。
半ば脅しのその問いに、乱入者は不敵な笑みを返して見せる。
「ヤダ」
怯えなど微塵もなく答えると、炎の雨が降り注ぐ。
翼で生み出した風の盾が雨粒の全てを受け流すが、晴れた先にスミレも一緒に居た結衣の姿も無かった。
居たのはただ一人。
忌々しき敵に対し、鷲の妖は一歩踏み出し口を開く。
「ネコもどき、名は?」
「ラマ。よろしく、鳥のおじいちゃん」
互いに引かず、一触即発の空気を張り詰めさせる。
満ちるは殺気。笑う顔には獲物を狙う獣の瞳。
食うか食われるかの、野生の勝負。
「不快極まるその五体、もいで我が身に捧げるとしよう」