白い妖、白い魔女
妖の街の中を、楽し気に歩く四人の少女たち。
正確には四人と一つの大きな弾がであり、楽し気な話の内容も卵をどう割るかについてだ。
「やっぱりハンマーじゃない? ほら、でっかいのある!」
「斧で割れなかったし、特別な道具がいいんじゃない? 魔道具とか」
先を歩くノアとラマの少し後ろで、結衣が通り過ぎようとした出店の前で立ち止まる。
「どうした――――のっ!?」
何を見ているのか尋ねようとしたスミレの目に映る、禍々しい商品に付けられた「爆弾」という商品名。
「スミレ……」
「ダメダメダメ! お店が吹っ飛ぶ!」
「いるかい?」
「いりません!」
手を伸ばそうとする結衣を抑え、店から引きはがそうとするスミレ。
そんな二人の相本が、突然大きく揺れた。
「!?」
建物が揺れ、店の棚から商品が落ち、賑わいが悲鳴へと変わる。
その光景に、スミレは妖の街に来てから体験することのなかった事象を思い出す。
「地震……!?」
驚くその頭上へと迫る、どこからか飛んできた巨大な瓦礫。
一秒後には潰れて死んでしまうだろうその巨大な凶器に、せめて結衣だけでもとスミレはかばう姿勢をとる。
だが、それに意味は無かった。
「…………?」
体が潰されるどころか、痛みすら感じないことにスミレは恐る恐る閉じていた目を開く。
そこに映ったのは、空中で凍り固まる氷塊と化した瓦礫。
そして、その氷塊を生み出したであろう、冷気を放つ妖の姿。
「ひっく……。あー。そこの人間。今は妖のいざこざの時間だから、死にたくないなら遠くへ逃げな。オレら妖怪と違って、お前らは脆いからな」
「あ、ありがとうございます……」
「いえいえー」
手に持った酒瓶を妖は一気に飲み干すと、腕を上へと上げ大きく伸びをする。
「……さて」
一息を吐き、そして――――あたり一帯が、銀世界へと変わる。
「!?」
「ほら急げ急げー? オレに殺されるぞ?」
そう言い、指し伸ばされた腕が二人へ向く。
逃げようとする足は凍手動かず、生み出された氷の槍は容赦なく殺しに迫る。
動かず震えるのは、恐怖か、凍えか。
腰に下げた刀すら抜けないスミレは、その死までの長い一秒を歯がゆさで睨みつける。
「少し、イジメすぎじゃない?」
それを止めたのは、二人の魔女。
氷の妖は、割って入った二人の人間を愉しそうに見つめた。
「人間ってやっぱり、生き急ぐのが好きなのかな。……まぁ。それはオレたちも同じだけど」
「きゃっ!?」
背後から聞こえる悲鳴。
振り返ったラマが見たのは、翼の生えた妖に連れて行かれる二人の姿だった。
ラマは迷うことなく二人の後を追い、ノアは氷に妖へ手に持った短刀を吐き出す。
「いいねぇ、ちゃんと盛り上がりそうだ」
「その口ぶり、やっぱり何か知ってるわけだ」
氷の妖の笑いが吹雪を生み出し、何もかもを凍り付かせていく。
その暴風の中心で、白髪の魔女はただ冷たい殺意だけを敵へと向ける。
「教えてくれる? 死ぬ前に」
「いいとも。たくさん語り合おうじゃないか」