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異界の魔女  作者: リーグス
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ヘビさま

「ヘビさま!」


 声が聞こえる。


「ヘビさま!」


 これは、私の声だ。

 顔の見えない誰かを呼ぶ、私の声。

 きっと、この街に来た三年前よりも、もっと前の記憶。

 たくさんの新しく強い記憶に押しつぶされても、唯一忘れることが無かった記憶。

 

「ヘビさまは、なんで――――」


 なんで、蛇様なんだっけ?

 この暖かな想いをくれた女の人は、いったい誰なんだろう。







「……? ……レ?」


 自身の名を呼ぶ声に、スミレは落ちていた意識を引き上げ(まぶた)を上げる。


「大丈夫? 疲れた? ……買い物、行かずに休む?」


 結衣の心配そうな顔にスミレは自分の顔を両手で叩くと、勢いよく立ち上がった。

 

「大丈夫! さ、行こっか!」


 大きな声で元気であるアピールをし、目を見開いて驚く結衣へと手を差し伸べる。

 手を繋いだ二人は歩幅を合わせて歩き出し、騒がしい声の聞こえる方へと歩き出す。


「そういえば、もう給料出たの? 早くない?」

「すっごい仲良くなってたラマお姉ちゃんが貰ってた」

「あー、相性よさそうだもんね。……ん? お姉ちゃん?」

「?」

「……えーと……私は?」

「……スミレ?」

「…………(————なぜ?)」






「良い子だねぇ、お前は。人間がペットを可愛がる気持ちって、こんな感じかな?」


 街の西側。その地下深くに広がる空間で、一体の妖の言葉が木霊した。

 返事はどこからも返って来ず、ただ妖に投げ捨てられた食料が何かに潰される音が響く。


「もう少しかなー……。もう少し……」


 怪しい瞳と微笑みで、待ち焦がれるようにそう呟く妖。

 そのみっみ元へ、コツン、コツンと徐々に大きくなる足音が届く。


「ずいぶんと汚らしいペットだね。ブラシの一つでもしたらどうだい?」

「この子に合うブラシが無いもんで。で。君だれ?」


 暗闇の中から現れたのは、片手に封の空いたお菓子を持つ女性。

 瞳だけを蛇へと変えた女性は、目の前に立つ妖ではなく、その奥へと視線を送りながら話を続ける。


「ただの掃除屋だよ。遠目にも分かるくらい大きな汚物が見えたから、帰る前に片付けに来ただけ。……あ、餌やり中にごめんね?」

「ズレた謝罪をどーも。……ちなみに邪魔するって言ったら?」


 蛇の女性は感情を感じさせない顔で少し悩むように斜め上を眺めると、何かを思いついた様子で手に持ったお菓子を握り潰す。

 そして、大きく開いた口で、小さく丸め込まれたそれを容器ごと飲み込んだ。


「お菓子じゃ足りない小腹を、君で満たしてもらおうかな」

「困るなぁ。どっちも」


 困り顔で苦笑いを浮かべる妖。

 その手が歪な刃へと変質し、女性へと突き伸びる。

 

「妖怪でも人間でも無いヤツが、勝手に介入してこないでほしいなぁ」

「たしかに私はどちらでもないけれど――――」

「!」


 顔面を貫く勢いで伸びた刃の先で、変わらぬ調子の女性の声が空気を揺らす。

 鋭利な刃先を掌で受け止めた女性は、仮面のような笑顔で妖へと微笑んだ。


「祀ってくれた人間には、私なりの礼を返したいからね」

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