結晶の卵
「隣の、部屋…………結衣!」
誰かの名を叫び、スミレは部屋を飛び出す。
それを追う形で、ウェンディたちも隣の部屋へと走った。
「結衣!」
乱暴にふすまを開け、返事を待たずにいいぽ、部屋の中へと踏み込む。
だが、中野景色を見た瞬間、足はそれ以上前へと出なかった。
「どうしたの? お姉ちゃん」
追いついたウェンディたちも部屋の中を覗き、息を呑む、
そこにあったのは巨大な結晶。七色に光り、異物という情報を持っていなければ神秘的なものとして目を惹くだろう。
だが、ウェンディたちが固まった理由はそれではなかった。
「えっ、と……何してるの? 結衣」
結衣と呼ばれた少女は結晶の前に立ち、斧を持っていた。
しかも決勝は部屋中に張られた糸で縛り付けられており、良そうとは違う危険な状況に、結衣以外の全員が情報を処理しきれていない。
「何って……割るところ」
結衣はキョトンとしながら答えると、斧を大きく振りかぶる。
続く質問をしなくても、何を割るつもりなのかは明白だ。
「せーの……」
「待った待った待った!」
振り下ろそうとした両手をスミレが羽交い絞めにし、少女の凶行にストップがかけられる。
「放して」
「放しません! 床が抜ける!」
「大丈夫。糸で縛った」
「これそういう意図か! ていうか斧どっから持ってきた!?」
「お母さん」
「何考えてんだあの人!」
「はあ……はあ……」
数分の攻防の末、なんとか結衣を自身の部屋へと連れてくることに成功したスミレ。
糸で縛られていた結晶は、少し難儀しつつも魔女四人がかりで取り外した。
「結衣……あれ何? また宝探しで何か見つけてきたの?」
「うん。見つけた。山奥で」
「……なぜ、割ろうと?」
「窮屈そうだったから」
「窮屈? 誰が?」
スミレの問いに結衣は結晶へ視線を移すと、その中を覗き見るように視線を近づける。
「まさか……」
「この中の子、窮屈そう」
ウェンディたちも釣られて中を覗くが、輝く結晶しか見えない。
――けど、言われてみれば命を感じる。かなり小さいけど。
もっと観察しようと決勝へ手を伸ばすウェンディ。
「……ん?」
だが、その手に妙な感じると同時に、見えない何かに弾かれた。
「え、なに今の」
「……弾かれた」
嫌な予感を感じ、他の三人も決勝へと手を伸ばす。
そして、全員が抱いた予想通りに誰一人触れず弾かれた。
「あー……もしかして、これ……中身を出すまで回収出来ない感じ?」
冷や汗をかきながら漏らしたラマの言葉を肯定するかのように、結晶は放つ光を一瞬強めた。