襲う者、助ける者
「ねぇ、なんかどんどん増えてない!?」
叫んだのはラマ。
だが、それはその場の四人全員が感じていたことだった。
「どうする? 誰か囮になる?」
「なら、一番素早い私が……」
「意味あるかな? この数相手に」
「「……確かに」」
「冷静過ぎて怖いよ、そこの三人!」
ツッコミを入れたラマだけは衝撃を受けたようなリアクションをとるが、他二人は無視して冷静に現状の打開を考える。
――煙幕を私の爆発で張る? でも、その後どこに向かえば……。
打開案が浮かばない中、状況だけが悪くなっていく。
最初は四体だけだった襲い来る妖は今では加須れるのが難しいほどに増えており、囲まれて逃げ場を失えば一巻の終わり。
だからといって逃げ続けるにしても、その街に襲われない場所がある保証があるかは誰にも分からない。
逃げるか、反撃に出るか。
どちらの賭けを行うかウェンディは悩み、そして――――
「みんな、私が煙幕を張ると同時に……」
「全力で走って」と叫ぼうとした言葉は、顔の横を何かが横切ったことで止まる。
後ろから飛んできたソレは初めから妖を狙っていたかのように突き進み、先陣を切っていた個体絵近付くと同時に不思議な光を放つ。
「あ、ああああっ」
「?」
光を浴びた妖たちはいっせいに動きを止め、揃って体を震わせ始める。
反撃にも動じず突き進んできた妖の軍勢が、飛んできたソレ――――変哲のないお守りに怯え、少し後ろへと後退した。
「こっちへ急いで!」
状況を飲み込めない魔女たちの耳に届いた、自分たちへ向けた叫び声。
敵か味方か分からずとも、全員がその声を信じて走り出す。
「まて、待てぇ……」
「バイバイ」
走り出すと同時にウェンディが投げ捨てた瓦が爆ぜ、妖との間に煙幕を張る。
恨めしい声を上げつつも、その煙幕を抜けて後を追おうとする者は居なかった。
「ゼェ……ゼェ……」
「お疲れ、アズちゃん」
「よく頑張ったね」
走り慣れていないアズが息が絶え絶えになる状態になったが、誰も欠けることなく妖たちから逃げ切り路地裏へと辿り着く。
その様子に、ウェンディたちを助けた者は微笑みを浮かべる。
「助けてくれてありがとう」
「いえいえ。あのお札は私が作ったものじゃないので」
――……すっごく人間っぽさあるけど、どっちだろ。
照れたように手を振る姿はどう見ても人間だが、そこを尋ねて問題ないかウェンディはわずかに迷う。
その内心に気付いたのか、少女は腰に下げた刀を投げ捨て、両手を挙げ掌を見せる。
「大丈夫、私も人間です。証明は出来ませんが……」
「大丈夫だよウェンディ。その人はウソをついてない」
「分かるの?」
「職業柄ね」
「そっか。良かった」
その言葉に嬉しそうに笑ったウェンディは、恩人である少女へと頭を大きく下げる。
「ありがとう、助けてくれて」
「え、あ。ど、ドモ……」
感謝に慣れていないのか、ありがとうと聞くたびに落ち着きを無くす少女は、瞳を泳がせながら必死に言葉を考え口へと運ぶ。
「……あっ、そうだ。えっと、もし良かったら……私がお世話になってるところに案内しましょうか?」