夜の街
「お、おおおぉお……」
ウェンディたちが出てきたのは、夜空が広がる街の路地裏だった。
住民の声が聞こえる通り道へと近寄った先で見えた景色に、全員が驚きに口を開く。
「妖……怪……?」
その言葉の通り、通り道にいる住民は皆、人ではない妖たち。
猫又、かまいたち、ろくろ首。
一目で断言出来る妖怪の見た目に、四人はそこが妖怪の街だと理解させられる。
「あらららら? アラ、あらら」
「なんてことでしょう。なんてことなの。人がいるわ」
「いるねぇ。こっち側にいるなんて、食べられたいってことなのかな?」
「きっとそうだよ!」
背後から聞こえてきた知らない声に、四人はゆっくりと振り向く。
そして、自分たちを見下ろす数体の妖たちと目が合った。
「食べよう!」
「食べよう! 食べよう!」
「他の誰かに取られないうちに!」
「ボクたちだけで食べちゃおう!」
「はい、いつものお野菜ね。毎日お使い偉いわね~、スミレちゃん」
「いえ。私がやりたくてやってるので」
ヤギの妖怪から野菜の入った袋を受け取る、人の姿をした少女。
その地面が、遠くから走ってきた衝撃でわずかに揺れる。
「あの方角、西側の領域ですね」
「あっちは本当に物騒ねぇ。スミレちゃんは行っちゃ駄目よ? アイツら、人を食い物としか思ってないんだから」
「――――はい。ありがとうございます」
続いて走った二回目の衝撃に、二人は西の街へ視線を移す。
そして、建物の上で暴れまわる妖の周りにを飛ぶ、小さな影を見つけた。
「(…………あれは――――)」
「あら? あの形、もしかして…………あら、ちょっと!? スミレちゃーん!?」
突然走り出した少女にヤギの妖が手を伸ばすも、静止の声に止まることなく、その姿は人混みへと消える。
その場に残ったのは、手から滑り落ちた野菜の入った野菜のみ。
「……もう。……この野菜は、あとでお店の方に届けてあげましょう」