三つ目の異界
「アッツぅ……」
自販機から出てきた缶ジュースを開け、汗の伝う顔でラマは一気に中身を飲み干す。
ウェンディもまた缶ジュースを取り出し、ふたを開きながらその呟きに頷きで肯定した。
「まだ七月中旬なのに、だいぶ『夏!』って感じがするよねー。セミもうるさくなってきたし」
二人が歩くのは人気のない廊下。
使われることの少ない境界科の校舎は、二人の歩く音を嬉しそうに響かせる。
「もう一か月経ったのかぁ。みんな疲れは取れたけど、逆に言えばそろそろ来そうでもあるんだよね~」
「自滅せず成長する異界はそう短期間には来ないって話だもんね」
――だから私たちも休めるわけだし。
「そろそろ夏休みだし、休み中に来られるよりは今来てほしくはある」
「分かる」
互いに共感し、頷く二人。
その耳元へ、願いを叶えるかのように一か月ぶりの校内放送が鳴らされた。
『あー、テステス。もう二回目だから分かると思うけど、対処が必要な異界が発生したよー。一年生はすぐに星間塔へ集合するように』
「おー。お早い集合、さすがだね。三年のわがままガールズに見習わせたいよ」
ウェンディたち四人が星間塔に集合すると、なぜかボロボロ姿のアザリエが出迎える。
裂けた服は何者かに攻撃された跡のように見え、流石に無視できずにウェンディは口を開く。
「あの……なんでそんなボロボロなんです?」
「ん? あー……これはね、君らを特訓と称して上の階に連れてこうとしたアホ共と戦ったときに出来たもの。二人はちゃんと担当の異界に突っ込んできたから安心して」
――本当にお疲れ様です。そしてありがとう!
先輩の両方に試練を与えられたウェンディは、その報告に本気で感謝した。
生徒からの尊敬度が上昇したことを知らないアザリエは、背後にある目的の異界と繋がる鏡を指さす。
「クラスは前回より一つ上のCね。これを乗り越えれば夏休みだ。油断せず、全員生きて帰って来るように」
「なんだろう、これ」
鏡の奥、異なる世界の森の中で、一人の少女は”それ”を見つけた。
空から流れ落ちた、七色に輝く異物の星を。