眠り落ちる鏡
「……君は、どうしてももう一度、彼女に会いたい?」
「なら、スノーホワイトになる魔女の学校。そこの境界科に入るといい。手続きはこっちでやっておく」
「そこで、五つ目の異界を迎えたのなら、君は————」
「贈り物?」
宴会を終えて帰ってきたウェンディは、椅子に座っていたラマから小さな物を手渡しされた。
掌に置かれたのは、白と緑が使われた綺麗な髪飾り。
「髪飾り? ……あ」
「心当たりあるの?」
「うん。これは師匠からのだ」
ウェンディは天井を見上げながら、過去を懐かしむように語り出す。
「私はここに来る前、一年間森に居たんだけど、そこで私に魔術の基礎を教えてくれたのが師匠なんだー。半年くらいで居なくなっちゃったけど」
「へー。でも、なんで師匠のだって分かるの? 私、気付いたら持ってたんだけど」
「前に一度、師匠の前飾り綺麗だねって私が言ったからね。でも、確かになんでラマを経由したんだろ。直接くれたら良かったのに」
ため息を吐く姿に、ラマはくすりと笑って座っている椅子に体重をかける。
そして、同じように天井を見上げて大きな伸びをした。
「まぁ、犯人がウェンディの師匠って分かっただけでも良かったよ。幽霊の仕業かと思って怖かったんだから
「あはは」
肩をすくめてみせるラマに笑顔を返しながら、ウェンディは口には出さず、過去の続きを思い出した。
——五回……あと三回異界に入れば、"あの子"に会える。
——楽しみだなぁ。
「そういえば、その先輩はどうしたの? 一緒に帰って来たんでしょ?」
「転移先の玄関で青筋浮かばせたアザリエ先生に連れてかれた」
星間塔。
異界が生まれては消えていく、無数の鏡を内包した塔。
境界科の者しか入るのを許されない場所に、境界科のものとは違う制服を着た少女のすがたがあった。
少女は一つの鏡の前に立つと、波打つガラスへ手を伸ばす。
「あと三つ、か……」
鏡に刻まれた異界のクラスを示す文字が、AからCへと書き換わる。
「五つの異界を超えたとき、誰の願いが叶うんだろうね?」
そう呟いた少女の姿は既に消え、残された鏡は静かに輝きを減らす。
映し出すは流れ落ちる一条の光。
三つ目の異界が、暗闇の中で口を開いた。