全霊で
いつも、桜の下で人を眺めてた。
儂の桜はデケェ上に一度も花を咲かせねぇんだから、ビビって誰も近寄って来なかったけどな。
「ねぇ、アナタ何してるの?」
私が見える、ガキ以外は。
「やるじゃあねぇか!」
あの反撃からこの小娘、ますます動きが機敏になってやがる。
今だってそうだ。
儂の出した拳に咄嗟に体を回転させ、その勢いを乗せて逆に殴りかかってきやがった。
若ぇのは成長が早いな!
「もっとアゲてけ!!」
………………違和感。
言葉に嘘は無い。
だが……どこか……。
互いに拳を突き出すこの瞬間も————。
「………………」
どこか、乗り切れない自分がいる。
————「おーにさーんこーちら!」
? ……これは。
この声は、最初の……。
————「てーのなーるほうへ!」
「ほい、儂の勝ち!」
「あークソーッ! また負けたー!」
「ちょっとは手加減しろー!」
「そうだそうだーッ!」
あの五人は、角の生えた儂に臆することなく遊びを挑んできた。
鬼ごと、コマ遊び、たまに焼き芋、百人一首、ケンカ遊び……は、出来んからチャンバラを。
「なー、なんでいつもチャンバラになんだよー」
「むしろお主は何故そんなに血の気が多いのか。他所でそんな遊びしとらんだろうな……」
「ナメんな! 俺は強い奴しか殴らねぇ!」
「それならよい……のか?」
「「いやいやいやいや……」」
伊助には悪いが、儂が本気で殴ったら確実に死ぬだろうし、アイツは手を抜かれるのが嫌いだっからなぁ。
……まぁ、だからあの日も、他のガキどもが泣いてる中で一人だけ怒っとったな。
「どこ行ったんだよ、➖➖!」
儂が現れてるのは周りに桜が咲いている間のみ。
そして、儂の姿もずっとガキ共に見えている訳ではない。
中には長いこと見えている奴もいるが、大抵は寝て起きてを両手で数えられなくなれば見えなくなる。
儂は慣れてとったが、アイツらは違う。
一人づつならまだしも、全員同時に見えなったワケだしな。
「私たちのこと、嫌いになっちゃったのかな……」
なる訳ないだろう、子花。
「消えちゃったのかな……」
おるさ。見えぬだけだ、唯香。
「また……会えるかな」
会えるとも、青吉。
「アイツが忘れてなきゃ、きっとな……」
忘れんさ。幾千時が流れようともな、五郎。
……そうだ、伊助は。
伊助は何と言っていた?
「ーーーーー、ーーーー!」
悔しそうな顔も、泣きながら叫んでいる姿も覚えているのに、何故、声だけが……。
儂は、忘れることなど出来ぬ筈なのに、何故……。
「なに、油断してんだ」
「!」
そうだ、遊びの最中に儂は何を……。
まずい、胸ぐらを掴まれた。
速く、腕を————ッ!
「勝たせてもらう気は無いぞ!」
………………今、この娘は何と言った?
殴られたせいか? 視界が霞む。思考が出来ん。
いや、だが……あの目は、どこかで……。
『強くなって、また来る!』
————ああ、そうだ。
誰よりも負けず嫌いなお主は、いつだって負けた時より勝ちを譲られた時の方が辛そうな顔をしていた。
いつだって、儂に本気を————
『お前が逃げたって、俺のガキが! 子孫が! お前が出会う奴の誰かが、本気のお前を打ち負かす!!」
「…………ったく」
ガキはいつだって我儘だ。
こっちの気も知らねぇで。
「そっちこそ、簡単に勝負着けんじゃねぇぞ」
踏み耐えた足から、丹田に、右腕へと力を込め流す。
右手に宿るは赤から青へと変ぜし炎。
敵へと見せる、本気の証。