桜下遊戯
街の中央に植えられた巨大な桜の樹。
その周囲には大規模な芝が植えられており、普段は公園として利用されている。
そして今、昼前のその公園に多くの人が桜の樹を囲んで集まっていた。
「嬢ちゃーん! 頑張れよー!」
「終わったら一緒に食べましょーっ!」
集まった人々は口々に桜の前に立つウェンディへの応援を叫んでおり、誰がどう見ても目的は観戦だ。
桜が咲く際に現れる、鬼との一騎打ちを。
「ギャラリー多くない?」
「私が集めました☆」
「こンの先輩が」
スザクの姉は棟梁としての仕事が残っているためその場には居ない。
代わりとして、彼女の持っていた刀がウェンディへと与えられている。
「そうだ、この子は預かっておくね」
「あっ」
そう言ってホロアが入っているバッグを取り上げると、スザクは観客の輪の中へと下がっていく。
「ほら、出てくるよ? 桜に眠る赤鬼様が」
スザクが指さす桜の根本には大量の枝木が落ちており、風に崩されることなく山になっている。
その中の一本が突然発火を始めると、たちまち炎はすべての枝木を灰へと変えていく。
『おーにさーんこちら』
「? 子供の声?」
『てーのなーるほうへ』
「どこから……」
鼓膜震わすは童の歌。
人の形で燃える炎が消えてゆき、中から男とも女とも判別つかない何者かが姿を現す。
だが、その額にある一本の角を見て、ウェンディは確信した。
桜の根本に座る者こそが、自身が倒す鬼なのだと。
「ほう……見ない顔だな。あのわんぱく坊主は来てないのか?」
閉じていた瞼を開けた居には、ウェンディを見るなりそう漏らす。
そしてゆっくりとその体を立ち上がらせると、近くに落ちていた木の枝を拾い上げる。
「その娘には連れてこいと言った筈だが……まぁいい。祭りの準備は出来ているようだしな」
言葉を発し、一歩踏み出すたびに周囲の空気が緊張を帯びていく。
ざわめいていた観客も言葉を飲み、立ち会った二人だけに意識を集中させた。
そして、一人の頬から汗が伝い、地面へと落ちた瞬間――――
「!」
一瞬で距離を詰めた鬼の棒きれが、ウェンディを構えた刀ごと大きく打ち上げる。
「チャンバラは久方ぶりだ! 心躍るな!」
叫ぶ鬼に合わせ、息を吞んでいた観客たちも騒ぎ出す。
「死ぬ気で盛り上げろよ? 異教の小娘」