謎の声 謎の少女
「………………朝か」
朝日に目を覚ましたウェンディは、視線を部屋の天井から壁にかけられた時計へと移す。
時刻は9時半を指しており、いつもなら遅刻確定だ。
だが、ウェンディたち一年は異物処理達成の褒美として臨時休暇を与えられている。
――――「世界を越えるのは肉体に負担もかかるからね。今は平気でも、人によっては翌日ベットから出られないこともあるよ」
――――「Dクラスだから一週間もあれば疲れは取れると思うけど、取れたからって無理はしないように。ちゃんと休むときは休むこと。いいね?」
期間後にアザリエが述べた言葉通りに昨晩ウェンディは倒れるようにベットへ横たわって眠り、普段の起床時間からかなり遅くに目を覚ました。
――……ご飯食べよ。
ボーっとした頭でそう考えると、ジャージに着替えてから部屋を出る。
そのまま階段を下りて一階にある食堂を目指すと、話し声が聞こえることに気付く。
——みんな、もう起きて……違う。
——……誰だ?
「分かってるってば。今日でしょ? ちゃんと行くって。しつこいなー」
対話のようだが、聞こえる声は一つだけ。
知らない声にウェンディは足音を消して近付くと、食堂の奥、調理場に見覚えのない後ろ姿を見つけた。
「あー、はいはい。……ん?」
気配を消していたにも関わらず台所に立つ人物は背後に誰か居ることに気付き、振り返った瞳がウェンディの姿を捉える。
「……へー? よかったねお姉ちゃん。今回はウソにならなそうだよ」
そう言いながら台所から出てきたのは、短い髪に真っ赤な髪飾りを付けた少女だった。
少女は壁から顔だけを出したウェンディに近づくと、獲物に向けるような笑みを浮かべ、口を開く。
「初めまして。私は境界科三年、スザク。君、今ヒマ?」
「いえ暇じゃないですさようなら」
——駄目だ、ヨモギと同じ系統の人だ、アレ。
——関わったら命に関わる無茶振りさせられる!
三年という言葉に嫌な記憶がよみがえり、ウェンディは急ぎ足でその場から離れる。
だが、その判断は少し遅かった。
「ちょっと待とっか」
背後から伸ばされた手がウェンディの肩を通り、胸の前で組まれる。
それと同時に床に炎が走り、円を描いて二人を飲み込む。
「ちょっと、一緒にお花見しに行こっか」
炎は二人を焼くことなく消え、残された火の粉が宙を舞う。
そして、先ほどまで見えてた景色とは異なるものが瞳に映る。
「…………は?」
眼下に広がるのは、道に人が溢れる繁栄した街並み。
——………………もう少し、休みたかった!
またしても、先輩による試練が強引すぎる形でウェンディに降りかかった。