二人旅
泣き止んだエリムを連れ、ウェンディは仲間と合流するため歩いていた。
その歩みは遅いが、もう脅威は無くなったため特に急ぐ理由もない。
「!?」
そのウェンディの予想を裏切るように、地面が大きく揺れて始めた。
無事だった建物が崩れ始め、地面は裂けて暗闇を覗かせる。
「なんだ!? 何がッ!」
「結界の崩壊が始まってる!」
「! アズ!」
一番に駆け付けたアズに続き、他三人も続々とその場へ駆けつけた。
だが、地割れが広がり続けている以上その場も安全ではなく、全員でまだ地面が残っている場所へ向けて走り出す。
長い間寝ていたエリムが走るには辛い速度のため、ウェンディは有無を言わさず両手で抱え上げる。
「結界の崩壊って、なんで!?」
「閉じ込める対象が両方消えたから! もしかしたらその子だけは助かるよう設定してあるのかもしれないけど、私たちは逃げなきゃマズい!」
「あの、なら降ろしてもらっていいですよ? 重くて迷惑……」
「うるさい黙ってる!」
「ひゃい!」
落ち着かない様子のエリムはウェンディの一喝で口を閉じ、代わりに後ろを走るノアが話し出す。
「ねぇ、もう強制帰還始まってない?」
「え?あ 、ほんとだ!」
ノアの言うとおり四人の足元に魔法陣が浮かび上がっており、数秒もせず全員が元居た世界へと返される。
「あのとき泥と一緒に異物も消し飛んでたみたいだね。異物は”回収”か”破棄”だし」
「あー、そっか。……あ、ドラセナこの子お願い!」
間違って一緒に世界を越えてしまわないよう、ウェンディは横を走るドラセナへとエリムを渡す。
それと同時に足元の魔法陣も完成し、帰還の時間を告げる光を放った。
「バイバイ、ドラセナ。手伝ってくれてありがとう!」
「……最後まで変わらないな。これからも、せいぜい頑張れ」
別れを告げると同時に翼を出し、空へと飛びあがるドラセナ。
脇に抱えられたエリムは四人方へ振り向くと、閉じていた口を大きく開けた。
「みなさん! 本当に! ありがとうございますッ!!」
とても大きなお礼の言葉。
四人は笑顔を浮かべ、手を振ってその姿を見送った。
「ずいぶん慌ただしい別れになったな」
魔女たちと別れた二人は無事に結界を抜け、山の頂上へと姿を現す。
「……これから、どこに向かうんですか?」
「そうだな……さすがにもう私の知り合いも居なくなってるだろうし、しばらくはフラフラ旅でもするかな。お前はどうする?」
「行きます。ついて行かせてください。私は……今度は、ちゃんと生きたい」
強い決意に満ちた言葉。
その真っ直ぐな目を見たドラセナは小さく笑うと、眼下に見える街に向けて歩き出す。
「じゃあ行くぞ。竜直々の世渡りを教えてやる」
「はい! よろしくお願いします!」