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異界の魔女  作者: リーグス
25/72

こちらこそ

「ー―ーー∸ー!!」


 空気を震わせるほどの咆哮とともに振り上げられた巨大な前足に、ドラセナは回避は不可能を判断し防御の姿勢をとる。

 だが、その前足が無慈悲に地面へと振り下ろされることはなかった。


「!?」


 泥の竜は突然自壊を始め、巨体が姿勢を維持できずに倒れ伏す。

 そして、その後頭部から小さな塊が飛び出し、その正体に気付いたドラセナの顔に笑みが浮かぶ。

 

「じゃあな、呪いの泥人形」


 核を失いながらも生者を呪おうと足掻く泥の竜に、ドラセナから放たれた大量の魔力が絡みつく。

 地面に満ちた泥すらすくい上げて一点へと収束した魔力は、前へと伸ばされた右手が握りしめられると同時に炸裂した。

 浄化された泥は魔力の粒へと変わり、昇った空から霧雨となって降り注ぐ。


「おお……」

「きれーい」


 泥から生み出された魚型の手下も魔力に飲まれて消え去っており、相手をしていたラマとノアは濡れない雨に天を見上げる。

 そして、囚われの少女を連れ出した魔女は――――


「ごめんね。ここまでしか残せなかった」


 ウェンディの見つめる先には、座りこんだエリムと、その両手に乗せられた小さな光。

 光が放つ輝きは今にも消えそうなほど弱々しく、ゆらめく姿は薪を失った焚火のよう。


「……聞こえてますか?」


 エリムの声に反応は無く、光はただ掌の上で輝き続ける。

 

「私は、あなたに救われました」


 震える声で話しかけるエリムの頬に伝う、一筋の水滴。

 応える声がなくても、エリムは喉から声を絞り出す。


「あなたが……私に暖かさを教えてくれましたっ! あなたがっ、私に、生きる幸せをくれた……っ!」


 言葉を繋ぐたび嗚咽が漏れ、くしゃくしゃになった顔から水滴が地面へと落ちる。


「だから――――…………」


 消え入りそうな声で続きを放そうとするが、息を吸ったとたん叫び声が喉まで込み上げ、漏らさないようエリムは唇を強く噛みしめる。

 震える方は腕を揺らし、光に小さな振動を伝えた。


『………、………………………』


 声は無い。

 だが、光はわずかに輝きを増し、妹へその言葉を届けた。

 

「――――ありがとう、ございましたッ!」


 悲しみを飲み込み、精一杯叫んだ言葉。

 その言葉に安心したように光は景色へと溶けて消えていく。

 掴もうとする手から光粒は漏れ、残ったのは空の掌。


「……ぅうっ、…………うわああああああああっ!!」


 虹がかかる空に響く、恩人を見送った少女の叫び声。

 開かれた世界の下で、エリムはひたすらに泣いた。

 言えなかったこと、伝えたかったことを、涙とともに吐き出すように。

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