想いは変わらず
「貴方が噂の邪竜ね! さぁ、私の軍門に下りなさい!」
「誰だお前。失礼な奴だな、食い殺すぞ」
取り戻した記憶が見せるのは、アイツと初めて会った懐かしい映像。
その女は国を救うと豪語し、私を仲間にすると宣った。
「私がア出来ると感じたんだもの! なら出来て当然だわ!」
行動も言動もめちゃくちゃな女だったが、吐き出した言葉をウソにすることはなかった。
私を盟友として付き従え、最後には最初の目標すら達成して見せたのだから。
「ほらね。私は一度だって、あなたを裏切らなかったでしょう?」
命の散り際だろうと、いつもと変わらない笑顔でそう謡って見せるほどの女。
そんな人間と関わるのは今生だけだと、火刑に処されるアイツを見ながら思っていたのに。
「まったく、私も変わんないな!」
私の死骸で出来た泥人形を殴りながら、つくづくその通りだと思う。
また、似たような自由でイカレた奴に協力してしまっているのだから。
「アアあアアアああアッ!」
「うるせぇよ泥人形!」
ぶつかり相殺する二つのブレス。
お互いに互角の性能な以上、持久戦になるのは分かっている。
そして私はドラゴン。当然耐久性も高い。
だから、全ては中へと入っていった二人次第だ。
「せいぜい頑張れ。助けたいと思った自分を、裏切らないようにな」
削れていく体を感じながら、前へ前へと進んでいく。
とうに無くなった筈の体の輪郭が、崩れて消えていくのが明確に分かる。
大丈夫。問題ない。
私は、あの子までの道をちゃんと作れる。
「――――ッ!」
いつぶりかすら忘れた体が損傷する痛みが、私の進む足を怯ませる。
……いや、大丈夫。
魔女の知識のお陰で、あの子がどこにいるのかはしっかり見えてる。
このペースの損傷なら、ぎりぎり辿り着――――
「ッ!? あっ、アああアアッ!!」
痛い、痛い痛い痛い痛い!
何かが私を傷つけてきた。
いや、違う。何かじゃない。
私は今、あの子を取り戻そうとしてる。なら、彼らがそれを拒むのは当たり前だ。
竜の死骸と絡み合った泥の怪物。
それは、何人もの底なしの沼へ命を投げ捨てられた人たちの恨みが積み重なり生まれたもの。
魔女、生贄、悪魔、教え。
死にたくないという人が当たり前の持つ想いが、私が近付くことを拒絶している。
「だからって、諦められない……ッ!」
可哀想だとは思う。
どれくらい苦しかったかなんて、私が分かった気になれる筈もない。
けど、同時に腹も立つ。
「…………返せ」
どんな理由があろうと
どんな想いがあろうと。
それは、エリムの命だ。私の妹の人生だ。
勝手に使うな。
「エリムを――――返せッ!!」
怒りに任せて一歩前に踏み出したとき、ふと、体が軽くなった気がした。
失った部分が、何か別のもので補われているような。
暖かな枝に、体を支えられているような。
答えが見つからないまま、感情の濁流をかき分け先へと進む。
そして、やっと――――