光の役割
暑い。寒い。暗い。
痛い。苦しい。寂しい。
何年が過ぎた?
魔女の心臓を指してから、視界が霞んでよく見えない。
声の出し方も、音の聴き方も、体の形も分からない。
…………けど、やるべきことは分かってる。
あの瞬間、私の脳に大量の情報が流れ込んできた。
エリムを救い出すために与えられた、私の役割。
それは、ここで”誰かが来るのを待つこと”。
魔女の情報では、私に出来るのは道を作ることまで。
あの子を剥がす役割は、別の人に任せなくてはならない。
魔女は私に殺させることで、殺した相手への呪いという形で魔術を発動した。
発動した魔術は、身体の拘束と、大規模な結界。そして、私の変性と記憶の譲渡。
エリムも巻き込んだ代償で完全に消えたあの人の代わりを、私はここで待ち続けなくてはいけない。
魔女の結界を破れる、誰かを。
「出来るのか? 今、痛みを我慢すら出来てない私に」
どこかでそんな声がして、無い口で大きく笑って強がって見せた。
出来るとも。
エリムが、泣いているのだから。
何日経った?
分からない。いつものこと。大丈夫、全然平気。
……一か月くらい経ったかな。
まぁいいか。案外平気。
痛みも苦しさも、暑い寒いも、強さは一定だ。順番も。
もっと辛かったのを思い出す場、やせ我慢で耐えられる。
…………まだかな。
最近、なんとなくだった体の境界が無くなってきた。
結界の内側全部が私になったみたいで、変な気分。
エリムは結晶みたいなのみ閉じ込められてたけど、今は眠ってるみたい。
よかった。
……よし、もうちょっと頑張ろう。
………………ん? 今、何か動いた?
何これ……魚? それにしては、妙にでっかいな。
もしかして、拘束が解けてきてる?
まだ決勝は大丈夫だけど……ああ、もどかしい。
早く来て、誰か。
……………………ああ、意識が途切れちゃってた。
魚みたいなの、私にむらがって来て閉じ込めるんんだもんなぁ。
広がった意識も今は幽閉されてるこの小さな体しか感じられないし、体の動かし方って、どうやるんだっけ?
ああ……まずい。何か考え続けないと、意識が途切れそうになる。
……何か…………何か………………
……………………………外。そうだ、外。
…だめだ。分かんない。
…………消えないで……まだ……このまま消えるのは、嫌だ……。
お願いだから…………。
………………………………まだ、生きてる?
私はちゃんと、存在してる……?
あの子を、助けなきゃ……誰か、ここから出して……。
お願い……あの子を殺さないで……。
誰か来たのなら……私を見つけて……。
あの子のところに、行かないで。
ま 来 の?
う来 る ?
あの は てる ?
私 生 の?
こ 夢?
早く て。 く来 。 て。 。
お だから、 を見 出 よ。
音?
おと、だ。音が、する……!
…………ああ、見える。ひかりだ。あれは、光だ。
やっと。やっと。やっと。やっと。誰か、来てくれた!
あの子を、救える日が来た!
嬉しさのあまり、今まで忘れていた体の動かし方をどうやってか動かせていた。
そして、出た先に居た気弱そうな少女を連れて、結晶封印を解いた。
これで、あの子が目を覚ます。
広がった感覚で見つけた二人には、魔術で作った本を読ませておいた。
協力してくれるかは分からないけど、会話を聞いた限りでは良い子そう。
あの子の友達になってくれたらいいな。
……よし。覚悟は思い出した。あとは成功させるだけ。
気張れ私! 姉として、かっこ悪い姿を見せてる暇はないぞ!
『……ちなみに、大怪獣とかは得意?』
「え? クジラとかは怖くて見れないけど……」
『…………』
……いける! たぶん!