二度目
「ずいぶん遠くまで飛ばされたねー。二人は無事かな?」
「私たちみたいに二人まとめて飛ばされてるのを願うしかないね。一人で異物所持者にでも会ったらかなり危険だから」
長い廊下を並んで歩くラマとノア。
二人ははぐれた仲間を探すため、一番大きな建物の著往生を目指していた。
「なんかお城みたいだよね。なっがい階段あったし、もしかしたらこの奥に王様がいたり?」
「……花王製はある。和足が言ったことのある色も、一番大きなところに王の間があった。ただ、問題なのは」
やがて廊下の奥へとたどり着き、大きな扉を両手で押し開く。
「ここに来るまで、一人も人の姿を見てないってことだ」
開かれた先には、ラマの予想した通り王の間らしき空間があった。
ただ、そこには王も臣下も、人間は一人も居ない。
あるのは奥に鎮座する巨大な結晶のみ。
「何、あれ……?」
「……私が言えるのは、どう見ても厄ネタってことだけかな」
ノアの言う通り、結晶の中には泥のような黒い液体がうごめいている。
まるで生きているかのようなその泥は、わずかに入った亀裂から少しづつ漏れ出し、床へと滲み込んでいく。
「ここから離れよう。調べるのは、もっと情報を集めてから――――」
その場を離れようとする二人の前に、床から大量の泥が溢れ出す。
逃げ出すには溢れ出した位置があまりにも近く、まさしく目と鼻の先だ。
ならばとラマを庇おうとするノア。
だが、泥が二人を飲み込むことはなく、変質した黒泥の爪が二人ごと壁を穿った。
「君はなんであそこに居たの?」
一番近くの建物へと入ったウェンディとドラセナは、部屋の扉を一つ一つ開きながら進んでいた。
不意に投げられた問いに、ドラセナは思い出すように天井を見上げる。
「うまく思い出せないけど……誰か……剣を持った奴だったかな。暴れてて、閉じ込められて、気付いたらあそこで暗闇を眺めてた」
「そっか……」
――やっぱり、誰かが封印してたか。
――なら、なんで誰も私たちに接触しない?
――封印したなら、封印が解けたときに備えてる筈。
また新たに一つの部屋を開き、中を見回す。
「……ん?」
今まで見てきた部屋と一つ違うのは、床に黒い汚れがあること。
何かと思ってウェンディが見つめていると、その汚れは徐々に範囲を広げ、黒い泥が溢れ出した。
「なんだ? 魚でも出てくるのか?」
「出てきたら私は泥を食べたことになるんだけど」
泥の中から現れたのは、魚型の怪物だった。
キュッと唇を噛みしめるウェンディをドラセナは嗤い、一歩後ろへ後退する。
戦闘は任せるという意思表示に、ウェンディは肩を下ろしながら一歩前へ出て同意を示す。
ナイフを握りしめ、再び会合した敵へとその切先を向ける。
「君は残さないから、異物について教えてくれないかなぁ」