達成/発生
「へー、こうやって使いまって作るんだ」
「なんかご飯みたいだねー」
「なぜ居る?」
使い魔を作る場所として選んだ空き教室。
その場所にはなぜか、呼んでいないはずのラマとノアの姿があった。
「面白そうだから」
「ラマが行くって言うから」
「場所伝えてないよね? なんで誰も彼もが話してない情報を握ってるの?」
ウェンディの言葉にアズは顔をふいっ、と背け、準備をそそくさと進める。
見学していた二人が途中から手伝いだしたこともあり、魔法陣と材料の設置はかなり早く設置し終えた。
「ふぅ。じゃあウェンディ、あとはお願い」
「分かった」
アズの言う通り、準備が終われば後はウェンディが魔力を魔法陣に通すだけだ。
材料と魔法陣に込めた量で使い魔の質は決まるが、雑に大量に魔力を込めれば魔法陣が崩壊する。
この上ない注意を払いながら、ウェンディは魔法陣へ魔力を流していく。
「ねぇ、今邪魔したらどうなるかな」
「さすがのウェンディもキレるだろうから、やめな」
――本当にやめて。
ウェンディの祈りが通じたのか、あるいはノアの静止が効いたのか、ラマによる妨害は最後まで入らず魔力通しは進行した。
全体に魔力を通された魔法陣は輝きだし、陣内に置かれた材料の合成と変質を繰り返していく。
後ろでラマがはしゃぎだすが、ウェンディはその間も魔力の制御をしなければならないため耳を傾けている余裕はない。
やがて製造は最後の工程を終え、魔法陣の真ん中に一つの生命体が誕生した。
「ア……アア……」
「喋った!」
「口あるからね」
ノアの言うとおり、その使い魔には口がある。
ぬいぐるみの外見をした使い魔はよたよたとウェンディの元へ近寄ると、短い右腕を前へ出す。
「よろしくね、”ホロア”」
右手を握り返すと、二人の手の上で光の円が作られ、はじけて消えた。
それは契約成立のサインであり、ホロアという使い魔が誕生した証である。
「ホロア……妙に似合ってるね、その名前」
「ね。なんかその名前で呼んであげなきゃいけない気がして。それより良かったの? せっかく買ったぬいぐるみ使っちゃって」
「うん。どうせなら生きててほしいし」
アズが手を伸ばすと、ホロアは両手でその手を掴む。
それを見たラマとノアの二人が「私も」とホロアに集りだし、生みの親でもあるウェンディはその光景を愛おしく眺める。
『あー、テステス! 境界科一年生に通達します。至急、星間塔前に集合してください。繰り返します。境界科一年、至急星間塔前に集合してください!」
あたたかな空間を壊す緊急の校内放送に、気を抜いていたウェンディはビクリと跳ねる。
――……意外と早かったな、次の異界。
目的である戦力の増強を果たすと同時に鳴り響く、新たな試練の鐘。
異なる世界を繋ぐ鏡が、魔女を求めて口を開いた。