買い物
「こんなものかな?」
「そうだね。一通りの材料は揃えられた筈」
図書館を出てから二人はあちこちの魔道具店を訪れ、少しずつ使い魔製造の素材を集めていた。
アズが安く売っている店を知っていたおかげでウェンディの出費も抑えられ、次の日を予定していた製作開始も移動時間の短縮によって今日行うことが可能になっている。
「じゃあさっそく――――」
帰って始めようか、と言いかけたところで、アズが近くの店の棚を見ていることに気付く。
何を見ているのかはアズの背中で見えないため、つま先立ちになって覗き込む。
「何見てるの?」
「ふぇあ!?」
「がふっ!?」
驚き振り返ったアズの肘がみぞおちに入り、ウェンディはくの字になって腹を抱える。
「あ、ごめんっ。大丈夫!?」
「大丈夫大丈夫。それで、さっき何を見て……」
「ならよかった。さ、帰ろっか」
「さっき見てたのを確認してからね」
「見なくていいから! 何でもないから!」
「まーまーまー」
腹の痛みの分、絶対に見ると決めたウェンディは壁になるアズをどかして本棚を覗く。
「ん? なにこれカワイイ」
「そ、そうだよねかわい……は?」
そこにあったのは棚に大量に置かれたモデルの分からない角の生えたバケモノのぬいぐるみだった。
手に持ってやわらかさを堪能している後ろで、アズは驚きに目を見開く。
「だ、大丈夫? その感性。悪魔のなりそこないとか言われてない……?」
「急な罵倒」
震える手で肩を掴む友に対し、ウェンディはぬいぐるみを見せつける。
「普通にカワイイでしょ。ほら」
「いや……そうなんだけどさ?」
「逆にドコがかわいくないと?」
「……角とか……目とか……」
「全然カワイイでしょうが!」
「…………」
――……あれ、なんで黙るの?
何かまずいことを言ってしまったかと心の中で慌てだすウェンディ。
だが、アズは目を大きくしたままで黙り続け、一切の動きを止めている。
「…………っく、ははっ。あはははっ!」
「? ???」
急に口をおさえたかと思えば笑い出し、周りの目も気にせず楽しそうな顔で腹を抱えだす。
そして、にじんだ涙を服のすそで拭くと、ウェンディの持っているぬいぐるみを手に取った。
「そうだね、その通りだ!」
全力で笑ったからか、その声は今までよりも弾んでいる。
手に持ったぬいぐるみぬ値段を確認し、店主に自分の金を渡すと、アズはウェンディの手を取って歩き出す。
「さ、今度こそ帰ろっか」
「お、おお。分かってもらえたようで、なにより……?」