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読んでくれたらちょっと嬉しい

間違いなく間違っている

作者: 阿部千代

 さて。なにかを待ち望んでいる。それは待ち望む者のもとにも、待ち望まない者のもとにも訪れる。たしかに平等と言えるが、問題は、多くの場合において、それがいつ来るのか誰にも予想ができないということだ。いまこの瞬間かもしれないし、明日かもしれないし、来世紀かもしれないし、もしかしたら昨日だったのかもしれない。その場合、もう待つことは無駄なのか? そうであるかもしれないし、そうではないかもしれない。

 だが。それでも待ちわびている。真っ赤なワインを飲みながら。外国産のタバコをくゆらせながら。ソファにゆったり身体をもたせながら。のんきに見えるか? 山になったタバコの吸い殻を見てもまだそう言えるかね? ついさっきまで酒瓶だったガラス片どもと壁を彩ったワインの染みを見てもまだ?

 切実なのだ。もうこれしか希望はないのだ。最初っからそうだったのだ。決まっていたことだったのだ。

 絶望に飲み込まれる前に。虚無に取り込まれる前に。速やかにこいつを終わらせなければ。

 ジャジャーン。阿部千代だ。なめんなよ、ヨロシク。


 日が落ちるまでは小説を書いている。驚け。4日かけて、966文字だ。そうなのです。阿部ちゃんは実はめちゃめちゃ書くのが遅いのです。最近は毎日毎日、まさにいま、目の前のあなたが読んでいるような、お得な情報がまったく記述されていない文章を発表しているのだけれども、こいつらだって5~7時間くらいかけてるからな。

 ここ小説家になろうでは、さりげなく文章書くの速い自慢を目にすることがよくあるが、おれぐらいになると書くのが遅い自慢しちゃうからね。どーうよ? べらぼうに遅いべ? 参ったかこのやろう。いかに小説家になろう広しと言えども、ここまで遅いやつはそうそういないと思うのだが、如何かな。挑戦者求ム。


 なぜここまでおれは文章を遅く書くことができるのか。今日はそのコツを、きみたちにわかりやすく解説し、伝授したい。こいつを実践すれば、いつかはきみも遅筆王間違いなしだ。最初はできることからでいい。なにごともゆっくりでいいんだ。焦る必要なんてまったくない。落ち着こう。時間はたっぷりある。が、有限だ。だからなんだと言うんだ? ときには立ち止まることだって必要なことだ。急がば回れ。だろ?


 まず最初に言えるのは、おれは画面を睨んだままなにもしないでいる時間が異様に長いということだ。本当に長いぞ。少し首を傾げ、腕を組んだまましかめっ面で一点を見つめているおれ。そこだけ見れば大作家の風格すら漂っているはず。たまに深いため息をついて、腕組み変形頬杖に切り替えたりする。そこから薄い無精髭をしょりしょり撫でてみたりも。しばらくすると画面の電源が落ち、おれはすかさずワンクリックして画面を復旧させる。何度も、何度も、一連の流れを繰り返す。無駄に時間だけが過ぎてゆく。ではその間、おれの頭の中でなにが起こっているのかといえば、ほぼなにも起こっていないのだから困ったもんだ。ただお腹だけが、ぐうぐう鳴り響くのである。


 腹が減っては戦ができぬ。わかる。わかるのだが、そうは言ったって腹が減ったままで戦わなければいけないときだってある。それがまさに、いまこのときってわけだ。

 そう。おれはついに覚悟を決めて、キーボードに手をかけた。なにか、なにか言葉を。あとに続く言葉を。んんん……出ない。ここからがまた長いのだ。時折、なんか適当に文字を打ってみる。夢の中では……違う。これじゃのれない。バックスペース。今日という今日は……これも違う。バックスペース。いつの間にやら……チッ。バックスペース。……こういうことが延々と続く。――おれはなにをやっているんだ? ――なにをやってるって、そりゃ文章を書いているんだ。――書いている? この状態は文章を書いている、そう言えるのか? ――ああ、そうさ。あくまでも文章を書いているって言い張らないと。――なぜ? ――だってきみ、もしこの状態が文章を書いていると言わないのだったら、きみは一体なにをやっていたんだ? ――なにをやってるって、そりゃ文章を書いているんだよ。――書いている? この状態は――ぐるぐる廻る自己との対話、こいつはまるで、無限地獄さ。

 さて。さて。だ。ここまでやって、ようやく冒頭の、さて。に辿り着いたのだ。意味分かりますか? 話、通じてますか? さて。この二文字と句点を打つまでに、これだけの時間を費やしたってわけだ。たったこれだけで、なぜか汗をかいていたりするから、よくわからない。

 そろそろ尻が痛くなってくる頃合いなので、ちょっと部屋の中を散歩する。あんまり根を詰めるのもよくない。適度なリフレッシュも必要だ。おれ、間違ってるかい?

 まあ、ここまで到達できれば、あとはなんだかんだで普通に、つっかえつっかえ悩みながら、少しずつではあるが確実に文章を書き進めていけるようになる、場合もあるし、ならない場合もある。最初の句点までの文字列が書けたのに、それでもまだ文章が進まない場合はもう一度最初っから。またモニターとの睨めっこが始まる。ただそれだけの話だ。


 以上が、阿部ちゃん流文章を遅く書くコツってわけだ。ポイントは文章を書くぞって思うそのときまでなにも考えないこと。つまり予習はNGってことだ。ぶっつけ本番、行き当たりばったり。どんな文章になるかは気分次第。あとは中断しないってこと。文章を書き終えるまでが文章を書くってことだから。

 なんて書いてたら、今日はすごく早く書き終わってしまった。トータル4時間くらいか。まことに面目ない。

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― 新着の感想 ―
[一言] 何度もコメントすみません。 感想にご返信ありがとうございます。 私はスピード自慢の人を以前どこかで見かけた時イラッとはしませんでしたが「スゲェ! そんなに書けるの? この人、人間か?」と羨…
[一言] 私は今のところ1話に大体8時間くらいかかってます( ̄▽ ̄;) 初めの頃(2年程前?)は4時間くらいだったのに。それが6時間になり、と段々……。しかも書き出すまでどの小説から書こうかと迷ってい…
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