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夏の影踏み  作者: 月代弥子
○茶色いエプロン、チョコ入りココア
1/2

《登場人物》

千石日夏せんごくにちか・・・高校一年生。

明石椎麻あかししいま・・・通称シマ。galの常連。

千石康平せんごくこうへい・・・喫茶店兼Bar・galのマスター。日夏の保護者。

澪標春架みおつくしはるか・・・高校一年生。七夏の友人。

 木が連なる道を通り抜け、雑草を踏みしめて体の半分しかない白いドアを開ける。その前にある茶色いドアに鍵を差し込み開けると右側にキッチンが見えた。あたしはローファーを脱いでスリッパに履きかえる。

 キッチンを覗き、大きい鍋の中をかき混ぜている姿を捉えて小声で声をかける。

「ただいま」

 するとくるりとこちらを向いてにこりと笑った。

「おかえり、七夏ちゃん」

 その声につられてか奥にいる常連さんからも「おかえり」と声がかかる。あたしは少し照れながら小さく頭を下げた。

 いつもの事だけど、未だに慣れない。

 ここは喫茶Bar・galだ。

 父方の祖父から続く喫茶店兼Barで、朝から夕方までが喫茶店で夜はBarになる。今のマスターは二代目で父の兄の康平さんだ。あたしの保護者でもある。

 一旦キッチンから顔を引っ込め、二階に向かう。自宅も兼ねている為、あたしはいつも裏口から出入りして二階にある自分の部屋に向かう。

 ギシギシと音を立てながら上り、右側の部屋を開ける。左側は康平さんの作業部屋だ。

 鞄を置き、素早く制服を脱いでいく。そして黒いシャツ、黒いズボン、茶色のエプロンを着る。特に決まっていないけれど、服は決まっていた方が楽だからあたしはこの三点セットでキッチンにこれから立とうと康平さんと決めた。

 高校入学して一週間。

 あたしは学校にバイトの申請をして、申請が降りた今日からgalでバイトを始める。

 髪を後ろで束ねながら階段を降りていく。

 いつも降りている階段だけど、妙に緊張した。

 スリッパに履きかえ、小さく深呼吸してからキッチンに入った。

「遅くなりました」

「全然。急いで帰ってきたんじゃない? もっとゆっくりでいいよ」

「いえ」

「じゃあ早速だけど、これ佐々木さんに持って行ってくれない? 今日から七夏ちゃんがバイトを始めるって言ったら売り上げに貢献したいって」

 そう言って台に置いてあるチーズケーキを指さす。

「七夏ちゃんに持って行って貰った方が喜ぶだろうし」

 チーズケーキを持って佐々木さんを見ると小さく手を振ってくれている。佐々木さんはお隣に住んでいるお爺さんで祖父の友人だ。この喫茶店創業時からの常連であたしも小さい頃からかわいがって貰っている。

 今日もトレードマークの茶色い帽子を机の上において待ってくれている。

 緊張しながら佐々木さんの前にチーズケーキを置いた。

「お待たせしました、チーズケーキです」

「ありがとう。七夏ちゃん今日からここでバイトするんだって?」

「はい」

「バイトできるくらい大きくなったんだねぇ。そりゃわしも年を取るもんだ」

 そう言って眩しそうにあたしを見る。最近佐々木さんと話していなかったけれど、昔よりも小さく見えた。あたしが大きくなったからか、佐々木さんが年を取ったからなのか。

「ごゆっくりどうぞ」

 小さく頭を下げてキッチンに戻っていく。

 するとマスターはカウンターに座っている別の常連さんと喋っていた。

 だけど絶えず手元は動いていて、あたしはその様子を見てぐっと眉を寄せる。

「あ、七夏ちゃん、向こうの方にビーフシチュー持って行ってくれる?」

 康平さんが白い皿にビーフシチューを注いであたしの前に置く。

「わかりました」

 今日は料理、飲み物を持って行くの繰り返しだった。

galの時間は穏やかに流れているけれど、あたしは落ち着かなくて浮いていた。

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