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1 始まりのキス

以前投稿した短編『始まりのキス』とまるっと同じです。

続編は次からとなります



仕事上がりに、騎士団の同僚である彼女といつものように軽く酒を飲みながら食事をし、彼女にあてがわれた宿舎に送って行けば、そのままグイと手首を引かれ、部屋の中に連れ込まれた。


どうしてそんなに自然に出来るのか不思議なくらいに、すぐさま前後の位置を入れ替えられる。そのまま彼女は後ろ手に扉をしめ、鍵もかけてしまう。

あまりのことに驚いて彼女を見た。近かった距離が更に一歩詰められる。息さえ触れそうだ。

彼女の腕が不意に上がった。そしてその白い手袋に包まれた右手の中指が、俺の唇に触れた。ふに、と下唇が押される。


「噛んで」


「え?」


「ねぇ、ほら」


ねだられるまま軽く噛むと、彼女はそのままくいと手を引いた。するりと手袋が外れる。白い手が現れるのを、俺はやけにゆっくりとした映像で見ている。

戸惑い、唇の力を抜けば、手袋は床に落ちた。


彼女の自由になった右手は、俺の頬を撫で下ろし、首筋を通ってシャツのボタンに辿り着く。その指でボタンを外しながら、


「こっちも」


と、左手の中指も唇に置く。今度は歯を立て強めに噛むと、彼女は少し眉をしかめたが、何も言わずするりと手袋を抜き取った。俺もすぐ唇を離し、再び音もなく手袋は落ちた。


思考の追いつかない俺を置き去りに、彼女は裸になった両手で俺のシャツのボタンを外していく。

指先からのかすかな圧迫感と、続く開放感に、鼓動が早鐘を打ち、体温が己で解るほど上がればじわりと汗が浮く。それを感じ取ったのだろう。彼女の口元が上がった。


「その気になった?」


「なった」


観念した。

この期に及んでそれ以外に何を言えというのか。

腰をぐいと引き寄せて、視線を合わせる。俺を見返す情熱を孕んだ彼女の瞳は、震えるほど好戦的で美しい。


その熱に見とれながらかすかに目を細め、俺は舌で唇を湿らせた。

さて、形勢を逆転させねばならない。現状、先制攻撃に為す術もないが、それでは騎士の名折れだろう。


だがこの憎たらしいほど優秀で、強く美しい女騎士は、攻撃の手を緩めない。


シャツの隙間からするりと手が入ったかと思うと、背中を滑らす。


「キスして」


落とされた囁きに、漏れそうになる唸りを噛み殺し、彼女の後頭部を抱え込み身体をより引き寄せ――吐息ごと唇を喰らった。


たとえ負け戦だろうとも、一太刀入れようではないか。




『始まりのキス』



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