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神様をさがして  作者: 高山 由宇
第12章 正しく見る
46/52

―2―


 開かれた扉の奥から五歳ぐらいの男の子が顔を出したのを見て、読真は首を傾げた。

「え……あれ? 赤ずきんちゃんの家じゃない?」

 すると、男の子はこくりとうなずく。

「ここに赤ずきんちゃんはいないよ」

「あ、そうなんだ……」

「お兄ちゃんは赤ずきんちゃんのお友達?」

「え……あ、いや、そういうわけじゃないんだけど」

「そうなの? なら、なんで赤ずきんちゃんを知っているの?」

「さっき、森で見かけたんだ。俺の弟が赤ずきんちゃんと一緒に行っちゃったから、赤ずきんちゃんを見つければ弟も見つかるかなと思ってさ」

「ふうん」

 そんなことを話していると、

「おい、扉を開けるなよ! 母さんに言われただろ」

 男の子の背後から、いくつか年上らしい男の子の諫める声が上がった。

「でも、赤ずきんちゃんのことを知っていたから」

「知っていたってだめだよ。母さんが、誰がきたって開けるなって言ってたんだから」

 そんな二人の奥にも子供がいるようで、みな遠巻きにこちらをうかがっている。

 ――なんでみんな隠れているんだろう。机の下とか、タンスの中とか。おいおい、台所の戸棚とか洗濯桶の中とか、そんなところにまで……。この辺ってそんなに物騒なのかな。

 外で遊ばないのか、みんな透けるように白い肌をしている。

「君たち、きょうだい?」

「そうだよ!」

 読真の問いかけに、一番幼い男の子がにこりと笑って答えた。

「お母さんは?」

「木の実を取りに行っているよ」

「お父さんは?」

「お仕事」

「こんな森の中で、どんな?」

「木こりだよ。お父さんはすっごく力持ちなんだ!」

「へえ。そうなんだ……」

 ――今回の話が見えないな……。

 赤ずきんをかぶった少女を見て、ここは『赤ずきん』の世界なのだろうと思ったのだが、この家にきて違うのではないかという考えがわいた。『赤ずきん』の世界に、こんな子供たちは出てこなかったはずだから。朗が狼を見たと言っていたから、たぶん狼が出てくる話なのだろう。赤ずきんの少女と、そして、狼……。

 ――もう、それって、『赤ずきん』しかないじゃん。

 胸中でつっこんでみるが、読真にはもうひとつだけ「物語」が浮かんでいた。その話にも狼が出てくる。そして、白い子供たちが……七人、出てくる。

 ――もしそうなら、この子たちのお父さんって誰だろ……。

 そう考えていると、家の扉の向こうから、ざっざっという足音が聞こえてきた。

「あ、お父さんだ!」

 幼い男の子の言葉に、

「お母さんかもよ!」

 隠れていた女の子が出てきて叫んだ。それを合図とするように、きょうだいたちが、わらわらと扉の前へと集まってくる。

「待てよ! もう、絶対にこちらから開けちゃだめだぞ!」

 一番の年長者の少年が弟妹を制した。

「お父さんやお母さんのふりをした悪い人かもしれないんだからな!」

「悪い人って?」

 少年の言葉が引っかかったので聞いてみた。すると、

「わかんない」

 ふるふると首を振る。

「でも、お父さんが襲われたんだって」

「それは、森の動物にじゃなくて?」

「うん」

「人に?」

「うん」

「狼とかじゃなくて?」

「この森に狼なんているの? 僕、見たことないけど」

「え……いないの?」

 逆に聞き返すと、少年は困ったように首を傾げた。

 ――狼がいない……? なら、朗はいったい何を見たんだ?

 困惑する読真をよそに、

「あ、お父さんだ!」

「ほんとだ! この足音、間違いないわ!」

 子供たちが騒ぎ出す。ざっざっという足音はだんだんに近づいてきて、扉の前で止まる。

 かちゃっと、鍵が開けられた。おそるおそる振り返る読真の前で、ぎぎぎと音を立てて扉が開かれた。


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