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神様をさがして  作者: 高山 由宇
第12章 正しく見る
45/52

―1―


 読真は、一人で森の中にいた。

 海に沈んだあと、気がつけば朗と二人で地面に倒れていたのだ。最初に起きた読真が朗を起こし、しばらくは二人で森の中を歩いていたのだが、途中ではぐれてしまった。きっかけは、一匹の狼と赤ずきんの女の子を見たことだった。

 最初に、真っ黒い体の狼を見た。

「あ、狼だ……!」

 それにいち早く気がついた朗が、驚きのあまり隠れることもできずに立ち止まる。しかし、狼はこちらに気がついていない様子だ。

「もしかして、ここって赤ずきんちゃんの世界かな?」

 疑問を投げかけてくる朗に、

「狼が出たから『赤ずきん』って決めるのは早いよ。狼が出てくる話は他にもあるし……」

と読真が答えてやっていると、

「あ! 赤ずきんちゃんだ!」

 小声ながらも力のこもった声で、朗が言った。その視線の先には、赤ずきんをかぶった女の子がいる。

「たいへんだ! 狼のヤツ、赤ずきんちゃんを狙っているよ。助けなきゃ!」

 そう言って走り出した朗は、赤ずきんに駆け寄ると、驚いている彼女の手を引いた。そして、そのまま、狼から距離を取るように走って行ってしまったのだ。

 こうして読真は、一人で森の中をさまようことになったのだった。

「おい、朗? いないのかあ?」

 歩きながら何度か声をかけてみるが、一向に返事がない。

「……まずいな。完全にはぐれちゃったみたいだ」

 どうしたものかと悩んだ読真は、とりあえず立ち止まる。ずっと歩き続けだった額には、大粒の汗が滲んでいた。近くの木の幹に背を預け、空を仰ぎ見る。ふうっと、思わずため息がもれた。

「早く朗を探さないと……」

 このまま朗が見つからなかったら……と、嫌な考えが読真の心を支配しはじめていた。体感と太陽の傾き具合から考えて、もう二時間ぐらい探し続けているような気がする。

 ふと空から視線を落とし、

「……あ」

とつぶやいた。視線の先には、一軒の家が建っている。

「……都合がいいな」

 展開の早さにつっこみながらも、その家に向かって歩き出した。

「あの、誰かいますか?」

 ノックしながら声をかけるが、返事はない。

「ここに、赤ずきんちゃんはいますか?」

 赤ずきんの名前を出しても反応はなかった。

「赤ずきんちゃんのおばあさん?」

 やっぱり返事がない。

「……寝てるのかな。それとも、違う家なのか……」

 読真は、扉の取手に手をかけてみた。

 ――もしかしたら、鍵は開いているのかも……。

 そう思い、戸を引こうとしたその時……。

 扉が、ひとりでに開いた。


「ちょっと、あなた誰? どうして走っているの?」

 突然現れた朗に引きずられるように走っていた赤ずきんだったが、ついに朗の手を振り払って足を止めた。

「私、おばあさんの家に行かないといけないの。そっちはおばあさんの家の方向じゃないわ」

「僕は朗だよ。向こうには狼がいる。真っ黒な狼が君を狙っていたんだ!」

「え、狼……?」

「そうだよ。狼が、君と、君のおばあさんを食べちゃうんだ」

「食べちゃうって、私はここにいるじゃない。それに、その狼が、どうしておばあさんの家を知っているの?」

「え? それは……」

 首を傾げる朗を横目に、

「助けようとしてくれたのはありがとう。でも、おばあさんは病気で寝ているのよ。だから私、早くおばあさんのところに行かないといけないの」

 そう言うと、赤ずきんはもときた道を戻って行った。

「ま、待ってよ。僕も行く!」

 赤ずきんがまた狼に出くわしたらたいへんだという思いが半分、見知らぬ森の中に一人で残されるのが怖いという思いが半分の朗は、すたすたと歩いて行く赤ずきんの背中を必死に追いかけた。

「……わっ、また出た!」

 途中、朗と赤ずきんは、またもさっきの狼に出会ってしまった。

「どうしたの、ロー?」

「どう……って、狼だよ! さっきの! 真っ黒な狼!」

「え?」

「逃げよう!」

 赤ずきんの手をつかんで再び走り出そうとした朗を、

「どうして逃げるの?」

 赤ずきんはそう言って制した。

「どうしてって、狼だよ?」

「それがなに? 襲われたわけじゃないでしょ?」

「襲われてからじゃ遅いじゃん!」

「逃げたいなら一人で逃げて。私は、こっちの道を行くから」

 そう言うと、赤ずきんは狼とすれ違いざまに、

「こんにちは」

と挨拶をかわす。赤ずきんと狼との距離は数センチ。けれども、狼は赤ずきんを見つめるだけで、襲う気配はまったくなかった。

「……ちょっと。狼がついてくるよ?」

 結局、赤ずきんと一緒に行くことを選択した朗が、後ろを振り返りながら震える声で言った。

「あら、そう?」

「ねえ、本当についてきてるよ?」

「あなただって私についてきてるじゃない」

「え……」

「あなたがよくて、あの人がだめってことはないでしょ? どちらも、たった今会ったばかりなんだから」

「あの人って、狼だよ?」

「……そうね。確かに、おばあさんはびっくりしちゃうかも」

「でしょ? いや、ていうか、誰でもびっくりするよね?」

「私、ちょっとあの人と話してくるわ」

「えっ?」

 赤ずきんはくるりと踵を返すと、真っ黒い毛並みの狼のもとへと駆けて行った。


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