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神様をさがして  作者: 高山 由宇
第9章 最期の楽園
40/52

―3―


「君たちは、ロバとイヌとネコとニワトリだろ?」

 読真の言葉に、大きな影は慌てふためき、ぱっとよっつにわかれた。

「あ! さっき、みんなが探していた動物たちだね」

 すっかり恐怖からさめた朗が告げると、

「嘘をつくな!」

 口々に動物たちが叫ぶ。

「わしらは人間に捨てられたのだ!」

「若い頃は散々こき使ってくれたくせに、獲物がとれないとわかると撃ち殺そうとしおって!」

「私もだよ! 私も、おかみさんに殺されそうになったわ!」

「僕なんか、まだ働けるというのに……スープにしようだなんて、あんまりだよ!」

 憤慨する動物たちに、

「飼い主たちにも事情があったんだよ」

と読真がその事情を伝えようとした。しかし、

「そんなのひどい!」

 朗が口を挟んだ。

「なんでそんなことするの? 働けなくなったから殺すなんて、あの人たちひど過ぎる!」

「ちょっと待てよ、朗。あの人たちにも事情があるんだって」

「事情なんて知らないよ! どんな事情があったら、殺されることを許せるの?」

「……みんなが死ぬとなったら?」

 朗は、ぽかんとした様子で読真を見つめた。背後の動物たちが息を呑む。みんな、緊張しているようだ。

「飼い主だって、できることなら手放したくなかったと思う。朗だって見ただろ? みんな、いなくなった動物たちを探していたじゃないか。でも、連れて帰るわけにはいかなかったんだ。働けない動物たちを飼ってやれるほど、生活が豊かじゃなかったんだよ。だから、みんなを捨てるか、それとも家族全員が死ぬか……その選択を飼い主たちは迫られていたんだ」

「……ペットを飼えないぐらい、みんな、苦しいの?」

「ペットじゃない。この動物たちは働き手なんだよ。俺たちの世界では信じられないけど、世界にはさ、本当に貧しい国っていうのがたくさんあるんだよ」

「そうだ。だから、わしらの居場所は……もうあそこにはないのだ」

 ロバが鼻を鳴らして言った。

「わしらはここで暮らすことに決めた。ここは泥棒を生業としている人間どもがねぐらにしていたようだが、さっき追い返した。またきたとしても、同じ方法で追い返してやる。ここには、木の実や草などの食料が豊富にあるし、人の手も届かない。わしらはここで楽しく余生を送るのだ。お前たちさえ黙っていてくれれば、だがな」

 それだけを言うと、動物たちは小屋に戻って戸を閉めてしまった。

「……行こう」

 朗が、立ち尽くしたままの読真の袖口を引いた。

「みんな、これで幸せなんじゃない? 飼い主たちも、動物たちが逃げてくれてよかったって思っていると思う。動物たちだって、ここでなら楽しく生きていけるでしょ? なら、僕たちがすることなんか、何もないよ」

「なあ。『姥捨て山』って知っているか?」

 うつむきながら読真が口にした言葉に、朗はこくりとうなずいた。

「うん。日本昔ばなしだよね?」

「昔、日本で本当にあった風習だよ」

「……え?」

「年老いて働けなくなった人をさ、口減らしで山に捨てるんだって」

「口減らしって?」

「食べないと生きていけないだろ? だから、食べる人を減らすってことだよ」

「食べる、人を……?」

「それだけ切羽つまってたんだよ。みんな、その日の食べ物にも困るぐらいに」

「……」

「いろんな地方に、日本昔ばなしの『姥捨て山』に似た話が伝わっているんだ。本当に山に捨てたり、……殺したり。ひどいものじゃ、生きたまま棺桶に入れて山から転がしたっていうものまであるんだよ」

「……日本で?」

「うん。でも、そんな悲惨なものとはまったく無縁で、人里離れたところに老人たちの集落を作って楽しく暮らしていたっていう話もあるけどね」

「そうなの? それ、いいね。うん、そういう話がいい!」

「そうだね。けど、なんにしても、食べ物に困るぐらいに生活が苦しいところでは、生きるために仕方なく『姥捨て山』に似たことが行われていたんだ」

「僕たちは、そんな時代に生まれてなくてよかったね。食べ物に困ることなんかないもん」

「まあ、今の日本でも、そういう人たちがゼロではないんだけど」

「え……?」

「うん。ほら、たまにホームレスのことがニュースになっていたりするだろ?」

 朗が首を傾げるのを見て、

「なっているんだよ」

と読真が言った。

「公園で寝てるホームレスが暴行を受けた、とかさ」

「それって、暴行をした人が悪いんじゃん」

「そうなんだけど、家があったら防げたわけだろ?」

「でも、仕方ないんじゃない? その人たちも、食べ物に困るぐらい貧乏ってことなんでしょ?」

「うん。でもさ、日本って、最低限の教育を受ける権利は全員に与えられているし、最低限の衣食住は保障されている。就職難とか言ったってさ、職を選ばなければ働き口はあるんだよね。給料の安い高いはあるだろうけど、たとえ安いところで働いていたとしてもホームレスになることだけは防げると思う」

「じゃあ、なんでホームレスみたいな人がいるの?」

「なりたくてなっているんだろうって。父さんが言っていた」

「えっ?」

「もちろん、憧れてなっているって意味じゃないと思う。でもさ、頑張った人がお金を貯められるのは事実だし、そうあるべきだと思うよ。頑張らない人が貧乏になるのは仕方ないことだと思う」

「じゃあ、頑張ってないからホームレスになったってこと?」

「頑張ってたけど、会社が倒産して一時的にそうなったって人もいるだろうけどね。でも、一方ではさ、補助金をもらって生活することになんの抵抗ももたない人もいるんだよ」

「補助金って、国が出しているお金ってこと?」

「国とか、県とか市とか。補助金は、頑張って働いた人が納めた税金から出ているんだよ」

「え、そうなの?」

 ふうっと、読真がため息をついた。

「本当に幸せなのかな、この状況」

「……」


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