表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様をさがして  作者: 高山 由宇
第9章 最期の楽園
39/52

―2―


 明かりの見えた辺りまでくると、雲が切れて月明かりがのぞいた。その明かりに照らされ、一軒の寂れた小屋が浮かび上がる。小屋には窓があり、ほんのわずかに開いていた。

「……暗いね」

 びくびくしながら朗が言う。小屋の中は真っ暗で、ひとつの明かりも見えない。

「誰もいないのかな」

 そう言いながら小屋に近づこうとした、その時……。

「……うわあああっ!」

 けたたましい叫び声とともに、小屋の戸が乱暴に開かれた。がたんがたんと、粗末な小屋全体が揺れている。一人の男が小屋から飛び出すように出てきた。その時に体をあちらこちらにぶつけたのだろう。小屋の揺れ具合からも相当痛そうだと思ったが、男はそんなことに構うことなく、暗い道をひたすらに逃げて行ってしまった。

「……何か、いるのか?」

 冷静に様子をうかがいつつ、読真は隣を見る。そこには、読真の腕にしがみついた朗が、瞬きも忘れたように固まっていた。

「朗。おい、朗!」

 ばしっと頬を叩かれた朗は、ぱちぱちと、忘れていた分だけの瞬きを繰り返す。そして、

「……なに? 人? ……が出て行ったの? なんで? あそこに、何かいるの?」

 がちがちと歯を鳴らして疑問を口にする。

「……行ってみるか」

 ぼそっとつぶやいた言葉に、朗はぽかんとした顔を読真に向けた。何を言われたのか、理解が追いつかないといった表情だった。

「あの小屋に何がいるのか、見てこよう」

「……、無理っ!」

 ぶんぶんと首を振って激しく異議を申し立てる朗に、

「なら、お前はここにいればいいだろ」

 読真は朗の手を振り解き、一人で小屋に向かって歩き出す。一人残された朗は、途端に肌寒さを感じた。背筋にひんやりとしたものが伝う。

「……やだ! それも無理だってえ!」

 そう叫ぶと、朗は読真のあとを追って小屋の前まできてしまっていた。

 さっきまでの騒動がなかったかのように、小屋はしんと静まり返っている。開かれていた戸も、しっかりと閉められていた。それがまた不気味さを増幅させている。

「……なんで、戸が閉まっているの?」

「……さあ?」

「さっき、開いたよね?」

「うん」

「出てきた人、開けたまま逃げて行ったよね?」

「……」

「ねえ……アニキ、なんで……?」

「だから……中に、いるんだろ」

「いる? いるって、なに? 何がいるの?」

「さあな」

「さあって、なに?」

「うるさいな! 俺だってわからないよ。でも、入ればわかるだろ!」

「え、入るのっ?」

 その勢いのままに、読真は小屋の戸を引いた。すると……。

「アーヒアー!」

「ワオーン!」

「ニギャア!」

「コッコッコォ!」

 天井に届くほどに背の高い大きな黒い影が、小屋の中からぬっと現れたかと思うと、言葉にならない異様な叫び声を上げたのだ。

「……っ、わああああ!」

 黒い大きな影を前に、朗も負けじと大声を張り上げる。

「おに……鬼っ!」

 朗の言うように、影の頭には鬼のような角が二本生えているように見えた。

 くるりと踵を返した朗だが、その襟元を読真がぐいっとつかむ。喉を押され、「ぐえっ」という声が朗の口から漏れ出た。

「何するんだよ! アニキ、逃げなきゃ……」

「待てよ」

「待てないよ! これ、この世界にきてから一番のバケモノだ。さっきの人だって襲われてたじゃんか!」

「この子たちはバケモノじゃないよ」

 「この子たち」という言葉に、朗は少しばかり落ち着きを取り戻し、そして改めて影を見上げた。

「え……あれ? この子たちって、もしかして……」

「うん。あの人たちが探していた子たちだよ。きっと」

 読真と朗は、大きな黒い影を前に、昼間に出会った人たちのことを思い出していた。


 二人がこの世界に着いたのは、太陽が真上に差しかかった頃だった。辺りは明るく、人通りも多く、街は賑わい活気に溢れていた。

 そんな中、中年の男性に出会った。

「やあ、君たち」

 そう声をかけてきた男性は、少し焦っているようで、それでいて安心しているような複雑な表情を浮かべている。

「……を見なかったかい?」

 男性がそう尋ねた。

「……?」

「見てませんよ」

 兄弟が答えると、

「そうか」

と、男性は目に見えて肩を落とす。

「いなくなっちゃったの?」

と朗が尋ね、

「一緒に探しましょうか?」

と読真が提案する。しかし、

「いや、いいんだ」

 男性が言った。

「いなくなったなら……逃げてくれたなら、それでいいんだ。私には、もう……あの子を養うことはできないのだから」

 男性はそう言うと、とぼとぼときた道を戻って行ってしまった。

 次に会ったのは、ロバを探していた男性よりも、もう少し年を取った男性だった。彼も落ち込んだ様子で、何かを探すように歩いていた。そのあとも、白髪の目立つおばあさんに会ったし、中年の女性にも会った。みんな、どこか物憂げな表情を浮かべている。何かを探しているようで、けれども見つからないことを願っているようにも見えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ