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神様をさがして  作者: 高山 由宇
第8章 魔女の正体
37/52

―6―


 読真は、朗から魔女へと視線を移した。

「もともと、こんな目にあったのだって、この人の家を食べちゃったからだ。魔女と言われて、住んでいたところを追われて、逃げた先で家まで食べられちゃって……。家を奪われたら、誰だって怒るよな」

「……お腹が空いていたんだもん」

 隣から、朗とグレーテルの声が重なるように聞こえた。

「……だから、食べていいってことにはならないよね」

 魔女の手の中で、ヘンゼルは申し訳なさそうにつぶやく。

「僕たちは、初めから間違えていたんだね」

 ヘンゼルがそう言うと、魔女は手を離してヘンゼルを解放した。

「でも、あの人は私とお兄ちゃんを襲ったわ。それは事実よ」

「その前に悪いことをしたのは、僕たちだよ」

 グレーテルの言葉を、ヘンゼルが正した。

「悪いことをしたなら、するべきことはひとつだ」

 読真の言葉に、

「……でも、それで許してもらえるのかな」

と朗が不安げに言う。

「許されないかもしれない。でも、だからといって逃げたらだめなんだ。罪を重ねることになってしまうから」

 ヘンゼルが言うと、

「……そうね」

とグレーテルがうなずいた。そして四人は、魔女と呼ばれた老婆に向かい、声を合わせて心からの言葉を口にした。

「ごめんなさい」

 すると、

「ふん」

 老婆は鼻をひとつ鳴らす。そして、にやりと笑ったのだ。

「合格だよ」

 ぽかんとした表情を浮かべる四人を前に、

「ここでの鍵は、その言葉を言えるかどうかさ」

と老婆が言うので、

「あ、もしかして、案内人……?」

「魔女から逃げるのに必死で、僕、『物語』のこと忘れていたよ……」

 読真と朗は、一気に脱力してその場に座り込んでしまった。

「ヘンゼルにグレーテル。お前たちの望みはなんだい?」

 唐突な問いかけだったが、

「家に帰ることだよ」

 しっかりとした口調でヘンゼルが答える。

「私も、帰りたい。でも、お義母さんが……」

 グレーテルは、うつむきながら涙声で言った。

「安心おし。お前たちの継母は、もう家にはいないさ。父親と喧嘩して出て行ったようだよ。そして父親は、お前たちを捨てたことを後悔して毎日探しているようだ」

「本当に?」

「ああ、本当さ。だからお前たちは、ここを出たら東へまっすぐに進むんだ。ほどなく湖が見えてくる。そこにいる白鳥に事情を話すんだよ。そうすれば、お前たちを家まで送ってくれるだろうからね」

 そう教えてもらうと、ヘンゼルとグレーテルは顔を輝かせ、意気揚々とお菓子の家を出て行った。お土産に、持てるだけの金銀財宝を携えながら。

「さて、次はお前たちの番だね」

 老婆が、にやりと笑いながら兄弟を見る。

「お前たちは、いったい何が望みだい? 金銀財宝かい?」

「僕たちを食べないで! この家から出たいよお!」

と朗が叫ぶのを聞いて、

「違う、そうじゃない」

と読真が訂正した。

「俺たちも、自分たちの家に帰りたいんだ」

 すると老婆は、

「ふうん」

とうなずいたあとで、

「なら、この扉を抜けて行くといい。次の『物語』に続いているだろうよ」

と言った。

「次の『物語』? まだ帰れないの?」

「もう嫌だよ! こんな世界、嫌だ。帰してよ」

 兄弟が口々に言い合う中、老婆は首を横に振る。

「だめだ。お前たちは、まだ家に帰るための鍵を見つけていないだろう」

「鍵って何?」

 すかさず朗が問いかけるが、またも老婆はふるふると首を振るだけだった。

「……仕方ない。行くか」

 そう言って扉に向かう読真。

「……そうだね」

 ひとつ大きなため息を吐き出すと、朗もそれに従った。扉の前で、

「それじゃあ、行こうか。あ……お兄ちゃ……あ、うん……あんちゃん、行こう」

 朗がもごもごとつぶやいている。

「お前さ、そんなに俺のこと、お兄ちゃんって言いたくないのか?」

 なかば呆れながら、読真は扉に手をかけた。

 まばゆいばかりの光が兄弟を包み込む。金色の光に包まれた兄弟の背に、老婆は微笑みかけた。

「次の世界では、鍵が見つかるといいね」

 そんな老婆の言葉を聞きながら、読真と朗は次の「物語」へと旅立って行ったのだった。


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