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神様をさがして  作者: 高山 由宇
第1章 魔法の木靴
3/52

―1―


 読真は、頭を抱えながら起き上がった。

 落ちてきた本が、ちょうどおでこに当たったようで、ぐわんぐわんとした感覚が残っている。触れると、熱を持っているようだ。

 ――これ、腫れるかも……。

 そう思いながら顔を上げる。

 その一瞬、さっきまでの痛みも忘れて目を見開いた。

「え……」

 思わず漏れ出た声は、白い煙とともに風に攫われてしまった。

 目の前には、見慣れない景色が広がっている。

 どこもかしこも真っ白な……銀世界。顔に触れた冷たさに思わず見上げると、おでこにひんやりとした感触があった。

 ――あ……気持ちいい。

 おでこから熱を奪って行く感触を心地よく思ったが、それも束の間のこと。読真は、ぶるりと身震いした。

「さ……寒い……」

 つぶやく声は、歯が噛み合っていない。口の端から、がちがちとした音を奏でている。

 両手で自分の体を抱きしめてさすった。その時、足が動かないことに気がついた。動かそうとしても、痺れたように感覚が鈍い。うつむいて見ると、くるぶしの辺りまで雪に埋もれていた。しかも、靴は履いていない。履いているのは靴下だけだ。それも、すっかり濡れて足に張りついてしまっている。

 ――このままじゃ、凍傷になる……。

 なんとか足を持ち上げる。冷たい風が、無数の針となって足を刺激した。

 ――まだ、感覚がある……。

 そのことに、読真はわずかに安堵した。感覚がまったくなくなっていたら……考えるだけでもぞっとする。

 一歩、二歩と、引きずるように冷たい道を歩いた。

 ――とにかく、足を温めないと……。

 歩きながら、かじかむ手で、制服のブレザーの襟を立てる。そして、道の脇に座り込んだ。尻が濡れる感覚が伝わってくるが、構うことはしない。

 ――これで、足をさすれる……。

 さすったところでたいした効果はないが、ないよりはマシだ。

 本当は靴下を脱ぎたかった。直にさすった方が温もりを感じられると思ったからだ。しかし、そのあとを考えれば、靴下は履いたままの方がよいと思えた。

 ――朗は、どこに行ったんだ……?

 足をさすりながら、ふと思った。

 ――図書室にいるのかな……。

 二階か、あるいは三階の図書室に。

 ――それなら、いいんだけど……。

 そう思いながらも、読真の脳裏にはある考えが浮かぶ。

 ――でも、もしかしたら、あいつもここに……。

 読真は、朗を図書室に閉じ込めた時に聞いた、悲鳴にも近い叫び声を思い出していた。

 足の指が動かせるぐらいに感覚が戻ると、読真は立ち上がる。

 ――早く、温かいところに行かないと……。どこかの家に入れてもらおうかな。せめて、靴だけでもあるといいんだけれど……。

 そう思い、休ませてくれそうな家はないかと辺りを見渡した時、一人の少年が走って行くのが見えた。彼は、路地裏から出てきたと思うやいなや、まるで何かから逃げるように大股で走り去って行く。

「あ……おい!」

 少年の背に声をかけた。だが、少年は気づいていないらしい。とても必死な様子で、また不器用な走り方で通りの向こうに消えてしまった。

「待てよ……おい!」

 寒さに固まった両太ももをばしばしと叩くと、ぎゅっと唇を噛みしめた。そして、少年の走り去った方をじっと見据える。

「……待てって、言っているだろ」

 震える唇でつぶやきながら、読真は彼の背中を追いかけたのだった。


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