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「ねえ、君たち。ここを雛が通らなかった?」
朗は、途中で会ったハトの群れに問いかける。ハトたちは顔を見合わせると、
「ああ。あの醜い子だね」
と、みな声をそろえて言ったのだ。
「そんなに醜いかな?」
「醜いとも!」
朗の声にかぶせるようにハトたちが言う。
「あんな灰色の、汚らしい毛並みは見たことがないよ」
「君たちだって灰色じゃん」
「それに、汚いのは泥をかぶったからだよ。洗えば問題ない」
思わず雛を擁護する兄弟に、ハトたちが食ってかかった。
「なんだと! 我々とあんな醜い子を一緒にするのか?」
羽をばたつかせて威嚇してくるハトたちに、朗も負けじと応戦する。
「あの子が汚いなら、君たちだって汚いよ!」
「朗、もういいよ。行こう」
ハトたちのぎらぎらとした目を見て、危険を察知した読真が朗の腕をつかむと、足早にその場を離れた。
「ちょっと、なんで逃げるんだよ!」
「数を見てみろよ。あんなのに襲われたらたいへんだぞ」
「だけど、逃げることないだろ! 僕、悪いこと言ってない!」
「そうだな! でも、言わなくていいことだってあるんだよ。わざわざ挑発することないだろ」
走ったことがよかったのか、幸いなことに、ハトたちが二人を追ってくることはなかった。
その後、カラスの群れに会った。読真と朗は、同じように雛のことを尋ねる。すると、ここでも、
「ああ、あの醜い子のことだな」
カアカアと、カラスたちはばかにしたように笑うのだった。
また喧嘩しそうになった朗を抑えていると、
「あの醜い子は、泣きながら向こうへ走って行ったぞ」
と、一羽のカラスが教えてくれた。読真と朗は、そのカラスがくちばしを向けた方へと行ってみることにした。
しばらく歩いていると、二人ぐらいは並んで通れそうなほどの大きな光の輪が、道の真ん中に浮かんでいるのを見つけた。
金色の輪の中心はさらに光量があり、まぶし過ぎて全部を見ることはできない。輪の中心は、まるで太陽のようにまぶしく、日向ぼっこをしている時のように温かかった。そして、それは、今まで通ってきた扉と同じ輝きであることに気がついた。
「え……なんで?」
読真が、唖然としてその輪っかを見つめている。
「これで、この『物語』は終わり?」
朗も、腑に落ちない様子だ。
「そんな……だって、まだ何も解決していない」
「僕、この話がなんの話かもわかってないんだけど。アニキはわかった?」
「あ、うん。『物語』が何かはなんとなくわかったよ」
「え、わかったの? なら教えてよ」
「嫌だよ」
「え! なんで?」
「少しは自分で考えろって言っただろ。お前も知っている話のはずだし」
「僕も知っている話?」
「うん。それよりも、まずはこの輪っかだよな。通るか、やめるか」
「何言ってるの? 迷うんなら通ればいいじゃん」
そう言うが早いか、なんの躊躇いもなく、朗は光の輪の中に飛び込んでしまった。
「朗!」
驚いた読真が呼んでみるが、返事はない。光の輪は、朗を飲み込んだあとも変わらずに輝き続けている。
「……朗?」
もう一度呼んでみたが、同じだった。
――もしかして、本当に次の世界に行ったのか?
そう思った読真は、おそるおそる光に触ってみる。指先が触れただけなのに、全身がぽかぽかと温かくなるようだった。
「……よし!」
意を決した読真は、朗と同じように光の輪をくぐった。
「もう! 遅いよ」
光の輪を出た瞬間、朗に怒られた。
「ここは……次の世界?」
読真の目の前には、紅葉に彩られた木々が見える。空は青く澄んでいて、羊雲が心地よさそうに泳いでいた。
「違うんじゃない?」
朗が言う。読真も、どこか違うような気がしていた。
「ここ、さっきと同じ場所じゃない?」
朗の言葉に周りをよく見れば、間違いなくさっき通ってきた道だ。ただ、違和感がある。同じ道だけど同じじゃない。
そう、景色が明らかに違っていた。
「突然秋になったみたいだ」
読真がつぶやくと、それに応えるかのように冷たい風が通り抜けて行った。
振り向けば光の輪が消えている。
「先に進めってことかな」
そう解釈した二人は、枯れ葉舞う秋の道を歩いて行った。




