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神様をさがして  作者: 高山 由宇
第5章 真実の美
21/52

―1―


 扉を抜けると、そこは鬱蒼とした森の中だった。舗装されていない道が続いている。上ったり下ったりする道も多い。もしかしたら、ここは山の中なのかもしれない。

「『シンデレラ』に出てきた道よりも歩きにくいよ」

「まさに、獣道だな……」

「何それ?」

「獣が通る道。人が通らない道だよ」

「でも、僕たち通ってるよ」

「ここに出ちゃったから、仕方なく通っているだけだろ。人の手が入ってない、自然のままの道ってことだよ」

 二人は、木の幹に手をつきながらなんとか道なき道を進む。

「……いたっ」

 すぐ後ろで朗から声が上がった。どうやら、木の皮で手の平を切ったらしい。

「舐めるなよ」

 振り向くことなく言われて、朗はどきっとした。今、まさに傷口を舐めようとしていたからだ。

「じゃあ、このまま?」

「傷口を吸って、その唾を吐き出すんだ。こんなジャングルの中じゃ、どんな菌がいるかわからないからな」

「でも、先生がそれはだめだって言ってたよ。虫歯からも菌が侵入するからって」

「お前、虫歯あるのか?」

「ない!」

「だよな。健診じゃ、虫歯がなくて毎年表彰されているもんな。歯だけは優秀だよなあ」

「歯だけってなんだよ!」

 そんなことを言い合いながらなんとか歩いてきたが、ついに力尽きたのか、

「……もう、無理!」

 朗が木の幹を背に座り込んでしまった。

「こんなところで座るなよ。虫に刺されるぞ」

「だって、もう歩けないよ」

「それでも歩かないと。こんなところで夜になったらたいへんだぞ」

「……うう」

「あ、ほら、見ろよ。もうすぐジャングルは抜けそうだぞ」

 少し先に日の光が射しているのが見える。

 ようやくジャングルを抜けると拓けた場所に出た。足場も平地のようで、しばらくぶりに一息吐く。

「……おい、朗」

 へなへなとその場に座り込んでしまった朗に声をかけるが、

「もう無理! 僕、もう一歩も歩けないから!」

 朗からは拒絶の声が上がった。

「一歩も? なら、お前はそこにいろよ。俺はあの家で休ませてもらうから」

「え……?」

 朗が顔を上げると、わずか数メートル先に小屋が見える。窓からは明かりが漏れ、煙突からは煙も上がり、そこに誰かがいることは明らかだった。

「お前はそこにいろよな」

 そう言うと、読真は一人で小屋の扉を叩いた。

 とんとん、と一回。……返事がない。もう一度、同じように扉を叩く。やはり、何の応答もなかった。

 ――ホレおばさんの家よりもずっと小さな家なのに……。聞こえてないはずはないと思うんだけど。

 そう思いながら、再度叩こうと手を振り上げた時だった。中から扉が開かれたのだ。

 あまりに突然のことに、手を振り上げたまま動けないでいる読真のその手を、家の中から伸びてきた手ががしっとつかんだ。そしてそのまま、扉の向こうへと引きずり込んでしまった。

 座り込んだままその光景を見ていた朗は、声を詰まらせた。何が起こったのか、すぐには把握できない。頭の中には、一瞬にしていろんな考えが浮かんだ。

 ――なに、今の……。アニキが家に引きずり込まれちゃった。手が見えた。なんか、ごつごつとして、毛むくじゃらだった気がする。もしかして……盗賊の家? それとも、子供を捕まえて売る人たちが住んでいるの? ……ううん、もしかしたら、人間じゃないのかも。だとしたら、人食い鬼とか、幽霊……とか……。

「……っ、うわあ!」

 浮かんでしまった恐ろしい考えを打ち消すように大声を上げる。と、さっきまでの疲れなどなかったかのように、朗は小屋とは反対の方向へと一目散に駆け出したのだった。


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