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神様をさがして  作者: 高山 由宇
第4章 思いと行い
16/52

―2―


「やあ、君たち」

 しばらく行くと、見事な林檎を実らせた木が話しかけてきた。

「ちょっと頼みを聞いてもらえないかい?」

「何かしら」

 「物語」の世界では動物が話すことはわかったが、パンや植物までが口を利くのかと、朗はしゃべる木をまじまじと見つめた。その隣で、ビアンカはなんでもないことのように、普通に林檎の木と会話をしている。

「私の林檎たちは実に見事だろう?」

「ええ、素晴らしいわ。まるでルビーのように真っ赤ね」

「そうだろう、そうだろう」

「とても美味しそうな甘い香りが漂ってくるわ」

「そうなんだ。今がちょうど食べ頃なんだよ」

「それは、残念ね。ここには食べにくる鳥や動物たちが見えないもの」

「そうなんだ。そこで君たち、頼むよ。私の体をちょっと揺すってくれないかい」

「え? あなたの体を?」

「そうさ。揺すって、実を落としてもらいたいんだ。もう、どうにも頭が重くってねえ」

 そう言われ、ビアンカと朗は二人がかりで林檎の木を揺すってあげた。ごろごろと、いくつかの林檎が地面に落ちてくる。そのひとつひとつが、きらきらとした笑顔を湛えているように光り輝いていた。

 と、その時、どしんと、物凄い音がした。地面が揺れた気もする。それから、わずかに呻き声も聞こえた。

「え……なにっ?」

 びくっと肩をすくめる朗。

「え、人?」

 ビアンカの声に、落ちてきたものをじっと見つめる。そこで朗は、

「なあんだ」

と肩の力を抜いた。

「アニキじゃん。何やってるの?」

 尋ねた視線の先では、両手足が使えないのか、じたばたともがいている読真の姿があった。

「なんか、べたべたしたもので手足を縛られているみたいなんだ!」

 そこで、朗とビアンカは、読真の手足を片方ずつ持つと左右に引き離す。べりべりべりという音を奏でながら、読真の手足はようやく自由になった。

「……はあ、助かった」

 そうつぶやいた読真に、ビアンカが手を差し伸べる。

「大丈夫?」

 その手を取りながら、読真は立ち上がった。

「……うん。ありがとう」

「あなた、ローのお兄さん?」

「うん、一応ね」

「一応?」

「あ、俺は読真って言うんだ」

「私はビアンカよ」

「ここ、どこかわかる?」

「ごめんなさい。私にもよくわからないわ」

「井戸の中らしいよ」

 朗が口を挟んだ。

「はあ? 井戸だって?」

 呆れたように朗を見る読真に、

「だって、ビアンカがそう言ってたんだもん!」

と朗が唇を尖らせて言った。

「ええ、そうなの。私は、落とした糸巻き棒を拾おうと井戸に入ったの。そしたら、こんな世界が広がっていたの」

 読真は、顎に手を当てる。

「……きっと、信じてはもらえないでしょうね」

 そう言ってうつむくビアンカに、読真は首を振って答えた。

「信じるよ」

「え! 信じるの?」

 朗が目を丸くして驚いている。

「これまでのことを思い出せよ。この本の世界では、どんなことだってありえることだろ」

「……まあ、確かに、そうかも」

 そんな二人の会話を首を傾げて見つめるビアンカを横目に、読真は、

「ただ、井戸が出てくるような童話があったかなと思って、考えていたんだ」

と朗に告げた。

「井戸っていったら……あ、あれだ!」

「なんだよ?」

「えっと……貞子、だっけ?」

「お前、それ観たことないじゃん。怖がっててさ」

「あんなの、観る必要ないもん。でも、なんとなくぐらいは知ってるよ。井戸が出てくるんだよね?」

「いや、だから、童話だって言ってるだろ。それじゃホラーじゃないか」

 そんな言い合いをしていると、

「……おばさんの家は、もうすぐそこだよ」

と、林檎の木が歌うように教えてくれた。けれども、おばさんの前の部分がやっぱり聞き取れない。

 兄弟とビアンカは、林檎の木に手を振ると先を進んで行った。


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