表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様をさがして  作者: 高山 由宇
第3章 努力の魔法
12/52

―3―


「そう。トーマとローね。それじゃあ、この子たちのことも紹介するわね。さあ、パーラ、スージー。ご飯の時間よ」

 エラは、持っていたパンくずを手の平に乗せると天窓に近づいた。すると、ほどなくして、二羽の青い小鳥がエラの手の平に止まると、パンくずを美味しそうに頬張り始めたのだ。

「お友達って、この小鳥のこと?」

「そうよ。かわいいでしょ?」

「そうだね。すごく綺麗」

 小鳥を撫でようと手を伸ばした朗を、

「食べている時はやめた方がいいわ」

とエラが制した。

「今触ろうとすると、パンくずと間違えてローの指をかじってしまうかもしれないもの」

 朗は、顔を引きつらせながら手を引っ込める。

「さあ、あなたたちも食べて」

 エラに促されるままに、朗は屋根裏部屋の床に座った。テーブルや椅子もないので、床にそのまま食器を置く。いつの間にかパンくずを食べ終えた小鳥たちは、元気にエラの周りを飛び回っている。

「アニキ、なんでそんなところにいるんだよ」

 読真は、エラから離れた壁際に座っている。そんな読真を不審に思った朗が声をかけるが、読真は黙々と食べ続けていた。しかも、こちらを見ようともしない。

「おーい、アニキ」

「……」

「もしかして、鳥が怖いの?」

「……」

「おい、アニキったら」

「……飛び回る鳥の近くで食べられるか」

「ええ? アニキ、それはないんじゃない? パーラとスージーはエラの友達だよ?」

「……」

「僕たちにご飯をくれたエラの友達を悪く言うの? エラに謝った方がいいんじゃない?」

「お前な……」

 そんな二人の会話を聞いていたエラが、くすくすと笑い出した。

「あなたたち、仲がいいのね。羨ましいわ」

「どこが!」

 読真と朗が同じタイミングでその言葉を口にすると、エラはまたも声を上げて笑った。

「私には、あなたたちのように言い合える姉妹(きょうだい)がいないもの」

 ふと、エラの目が悲しげな色を帯びてある一点に向けられている。その視線を辿ると、そこには、薄い桃色のドレスが脱ぎ捨てられたように置かれていた。

「あれ、エラの? なんか破れているみたいだね」

「……破られてしまったの。二人の義姉にね。亡くなったお母様から受け継いだドレスだったのに」

「なんで? そんなの酷いよ! あ、そっか。みんな、エラが舞踏会に行くことを嫌がっているんだね」

「……え? どうして、そのことを知っているの?」

「だって、そういうシーンがあったから……」

 言いかけた朗の口を、読真は両手で押さえ込んだ。

「舞踏会が開かれるんでしょ? それは街中の噂だもん。知っているよ」

「そう……?」

 とっさに出た読真の言い訳に小首を傾げて見せたが、エラは特に追及するつもりはないらしい。すくっと立ち上がると、

「あなたちはゆっくりしていてね」

と告げて部屋を出て行こうとする。

「エラはどこに行くの?」

 読真の手を跳ねのけて尋ねる朗に、

「仕事があるのよ。お義母様たちが帰ってくる前に済ませないと」

とエラは言った。

「仕事? 家の掃除とか?」

「ええ。お掃除とお洗濯と夕食の準備もしないといけないの。それから、破られたドレスも繕わないと。それらをすべてやり遂げたら、明日の舞踏会に出てもいいって言われているのよ」

「そんなの、嘘だよ! ドレスが無事だってわかったら、また破かれるよ」

「……でも、だからといって何もしないわけにはいかないわ」

「そんなに舞踏会に出たいの?」

「ええ、もちろん! きっと、お城って、見たこともないくらい美しい世界なのでしょうね。一生に一度でいいから行ってみたいわ」

「そっか。なら、行ってきなよ」

 エラが朗を見つめる。すると、朗はエラを見つめ返して言った。

「エラが家の中のことをしている間に、僕たちがドレスを直すよ」

「何言ってるんだよ、朗」

 読真が横から朗の言葉を制する。

「なんだよ、アニキは嫌なの? エラが困ってるんだよ。ちょっとぐらい手伝ったっていいじゃん」

「いや、そうじゃなくて……」

「じゃあ、なんなの? これじゃあ、エラが可哀そうだよ」

 くすくすとエラが笑っている。

「トーマ、ロー。あなたたち、お裁縫は得意?」

「あ……」

 エラに言われて、朗は授業以外で裁縫をやったことがなかったことに気がついた。

「だから、逆なんだよ。俺たちがドレスを直すんじゃなくて、家事を俺たちがやるんだ」

「そっか。でも、アニキ。ご飯作れる?」

「……作ったことはあるよ。カレーとか」

「『シンデレラ』の世界にカレーなんかある?」

「……夕食はあとから考えればいいだろ。まずは家の掃除からやればいい」

「ありがとう。トーマ、ロー。わからないことがあったら何でも聞いてね」

 エラの笑顔に見送られながら、読真と朗は階段を下りて行った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ∀・)そっか朗がローって呼ばれるんですね。トラファルガー・ローみたいな感じでイイですね。異世界に完全に入った2人ですが何とか馴染んでこうと努力している感じというか、掛け合いが好きです(笑)…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ