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出会った二人 ※アイシクル視点





 北の国・某所・夜。


 アメリアから"行方不明になった友達を捜しに行ってくる"と言われてから三日が経った。あれからアメリアからの連絡は無く、未だに彼女は帰って来ていない。


 誰かを捜しに行った先で自分も行方不明になってしまう。なんて事はよくある話だけど、まさかアメリアもそうなってるなんて事はないよな? こうも三日間何も連絡がないままだと心配になる。


「…はぁ」


 手に持ったグラスを見つめて溜め息を吐く。背後では、パーティを楽しむ人々の声が騒がしく聞こえてきていた。本日のパーティは、ディー家と並ぶ最高貴族名家の一つ・キューベルト家のご令嬢マーベリアの誕生日を祝うためのものである。


 正直に言ってしまうと、今の俺には全然他人の誕生日を祝えるほどの余裕はないのだが、母さんから"どうしてもついてきて欲しい"と言われてしまっているために断るわけにもいかず、仕方なくここでこうしている。叶うなら、今すぐ帰りたい。


「アイシクル」


 手すりに両腕を置いて、空を見上げる。


 ここのテラスは居心地が良いなぁ、なんて思いながらグラスに入ったジュースを飲んでいると、背後から母さんの声が聞こえてきた。振り向くと、母さんは口元を緩ませて俺の隣まで歩いてくる。


「母さん」

「楽しんでる?」

「…まぁ、それなりに」

「そう。良かったわ」


 手に持ったグラスに口を付けて、ワインを一口。見ると、酔っているのか少しだけ顔が赤かった。


 お酒があまり得意ではない母さんがお酒を飲んでいるなんて珍しい。


「今日は本当にありがとう。アイシクルが来てくれて助かったわ」

「…お酒、飲んでも平気なのか?」

「これが飲まずにいられますか。さっきまで面識も何もない人たちに囲まれていて凄く居心地が悪かったのよ? お酒でも飲んで気分を和らげないと乗り切れる気がしなかったのよ」

「だったら俺じゃなくて父さんを連れてくれば良かったのに」

「しょうがないでしょ。あの人、急に遠出する用事が出来ちゃったんだから。…トールもトールで最近ずっと帰ってこないし。そうなっちゃうと頼めたのはアイシクルしかいなかったのよ」

「……」


 母さんが俺をここへ連れてきた理由は、"こんな知り合いが誰も居ない場所に一人で来るのは凄く寂しかったから"。


 どうしてもって言うからついてきたのに、何か特別な理由でもあるのかと思ったら超個人的な理由で、ちょっと拍子抜けというか、でもだいぶ母さんらしい理由だった。


「あんまり飲みすぎるなよ。終盤になって介抱すんの嫌だからな」

「そこまでは飲まないようにするから大丈夫よ。…、ああやだ。知らない人がまた此方見てる。行かなきゃ」

「…?…、母さんも大変だな」

「貴方もいずれこうなるのよ。…それじゃ、母さんはもうひと働きしてくるわね。…まったくもう。どうしてこう貴族ってパーティが好きなのかしら。来る身にもなって欲しいわ」


 そう言って、母さんはぶつぶつと呟きながら離れていく。知らない人のもとへ行って社交的な挨拶をする母さんを見て、俺は眉を下げて息を吐いた。


 母さんの気持ちもわからなくはない。誰だって知らない人ばかりのパーティなんて一人では行きたくない。これが"知り合いの人しか居ない普通のパーティ"だったならいいのだが、これは貴族同士のパーティ。貴族同士のパーティはだいたい知らない人ばかりが集まる事が多いから面倒しかないのだ。断ろうとすれば脅してくるし、厄介極まりない。


「…はぁ」


 再び溜め息を吐く。

 もう溜め息しか出ない。


 あれほど"勝手に居なくなるな"って言っておいて、自分が勝手に居なくなっていては人の事は言えない。友達を捜しに行くのなんて一日あれば十分だろう。


「…」


 襟に付けている銀色のブローチを外す。このブローチは、誕生日を何日か過ぎたあとにアメリアに"渡したいものがある"と言われて貰ったものだ。


 こういう贈り物系は相手側のセンスが重要だと言うが、アメリアのセンスは俺から言わせてみればなかなかのものだ。このブローチは今や俺のお気に入りの一つで、無くなさないように肌身離さず持っている。


[わん!]

「!?」


 ブローチを見つめてアメリアの事を考えていると、そこで突然背後から犬の鳴き声が聞こえてきた。予期せぬ不意打ちに吃驚してブローチを落としそうになったがなんとかそれを落とすことなく、声の方を振り向く。


 そこには黒い小さな犬が居た。その犬は尻尾をブンブンと振り回しながら俺の元に近付いてくる。キューベルトさんが飼っている犬だろうか。


[わん!]


 舌を出して、その犬は俺を見つめる。しゃがんで頭を撫でてやれば嬉しそうにまた声をあげた。


 首輪に付けられている金色のネームプレートを見ると、そこには"ケルン"と彫られていた。おそらくこの犬の名前だろう。


[わん!]

「……」


 随分と人懐っこい犬だな。初対面の俺に撫でられてるのに警戒の一つもしない。それだけ人に慣れてるって事か。


 犬…ケルンの頭を撫で続けて、"まぁ、それはそうか"と思う。こんなに人が多い所で人見知りなんてしていたら身がもたないもんな。


「お前、将来はこの屋敷の番犬になるのか?」

[わん!]


 口を開いて問い掛けてみる。もちろん犬なので答えてくれるわけがない。わんわんと吠えるケルンを見て、俺は口元を緩ませた。その時。


[ようやく見つけたぞ。我が依代(よりしろ)よ]

「!」


 その時、頭上から声が聞こえてくる。


 顔を向けると、そいつは宙に浮かんでいた。じっと見下ろす真っ赤な両目が冷たく俺の姿を映している。


[随分と捜したぞ。やはり貴様は身を隠すのが上手いな]

[わん! わん!]

[? …そいつは貴様の犬か? なんとも可愛らしいのを連れているな]


 そいつは手すりの上に降り立ち、俺のもとまで歩いてくる。少し近付かれただけでぞわぞわと背筋が冷たくなる感覚を味わい、俺はケルンを抱き上げて後方に足を引かせた。


 パーティ会場の灯りで、そいつの顔がはっきりと見えてくる。両目と同じ真っ赤な髪はまるで燃えているようだった。その男の姿を見て、俺は眉をひそめる。


「誰だ?」

[グルルッ……]

[ん。あ、おっと失礼。また忘れてた。まず最初に自己紹介だよな。貴様とは何度も顔を合わせているからつい忘れちまうんだ]


 男は言う。不気味に笑う男。俺は、その男の姿に見覚えがあった。何処で見たのかは覚えていないし、これが初対面のはずなのだが、でも確かに俺はあの男を知っている。


「……、」


 男を見ていると、胸の奥が熱くなる。


 どこか懐かしささえも感じるこの胸の高鳴りは、一体何なのか。


[初めまして。俺の名はサラマンダー。炎の柱からやって来た炎の精霊だ。以後よろしく]


 男…サラマンダーは言って、胸に手を添えながら頭を下げた。



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