風の遺跡・ゼラニウム 4
「これ、何て書いてあるの?」
[ワタシにお任せを]
シャスティアを無事に見つけ出した私たちは、再び上に戻るための道を探して歩き始める。暗くて狭くて臭い道をひたすらに歩き続けてやって来たのは、篝火のおかげで少しだけ明るく照らされた広い部屋。そこにはポツンと石板がくっ付けられた台座が置かれていた。
石板には文字が書かれていて、その文字はまたしても精霊文字。文字を見つめてポカンとしている私に代わり、リヴィスがそれを読み進めた。
["いよいよ第三の試練だ。ここでは知恵と運の両方を試す。まずは四方に設置されている灯火台に火を灯せ。ただし、灯す灯火台には順番があり、正しい順で灯さなければまた最初からやり直しとなる"]
「…灯火台?」
頭の上に"?"を浮かべて、私とリヴィスは顔を見合わせる。見てみると、確かに部屋の隅には火の灯されていない灯火台が四つ置かれていた。東西南北。四つの隅に置かれた四つの灯火台。順番に灯せ、とは。
「っていうか、第三の試練って、…ここでも試練を受けなきゃいけないの?」
「ここでも?」
「あ。私ね、ここに落ちてくる前にも試練を受けてたんだよ。第一と第二。それで、これが三つ目」
「ちょっと待ってください。貴女も試練を受けていたんですの?」
「ん?」
眉をひそめて聞いてくるシャスティアに首を傾げる。聞くと、彼女も第一の試練と第二の試練を突破してここまでやって来たのだと言った。
「…どういう事?」
[試練は平等に。という事でしょう。あの人の考えそうな事です]
[あの人って誰ですか?]
[それは、ここを無事に抜け出せればわかるでしょう]
リヴィスは言う。
まぁ、何はともあれ、先に進むためには試練を突破するしかない。私は頭を切り替えて、石板に書かれた"灯火台を順番に灯せ"という問題に集中する事にした。まずは、灯火台を調べてみよう。
「うーん」
[アメリアさま、何かわかりますか?]
「…全然わかんない」
手分けをして、私たちは四つの灯火台を調べる。順番に火を灯すのに目印になるものはないかと隅から隅まで探してみるけれど、特にこれといって目印になるようなものは何もない。
うーん。と、腕を組んで顎に手を添えながら悩む。どこかに番号とか書いてあれば楽チンなのにな。
[…? アメリアさま、ここに何かあります]
「どうしたの?」
名前を呼ばれて顔を向ける。見ると、プクプは灯火台の中に入っていた。どうやら何か見つけたようで、私は光の魔法で灯火台の中を照らす。そこには見た事もない謎のマークがたくさん書かれていた。精霊文字とも違うそのマークを見て、私は頭の上に"?"を浮かべる。プクプが見ていたのは、灯火台の底の部分に書かれていたマークだった。
火を点けるのに必要な木片や綿に隠れるように書かれていたマーク。そのマークは私にはとても懐かしい文字で書かれていた。とても久しぶりに見る文字だ。それは、漢数字と呼ばれているものだった。"参"と書かれている。
[何でしょう、これ? アメリアさま、わかりますか?]
「これって…」
[アメリア]
「わあ!?」
"参"という文字をまじまじと見つめていると、背後からリヴィスが声を掛けてきた。いきなり名前を呼ばれたので、私は目を見開いて吃驚する。
[すみません。驚かせてしまいましたか]
「う、ううん。大丈夫。ごめん。…どうしたの?」
[あちらの灯火台を見てきました。そしたらこんなものが]
「?」
言って、リヴィスは私に手に持っていたものを見せる。それは、びっしょりと濡れた紙だった。足元に水滴が落ちる。
水が滴るその紙には私が先ほど見ていた謎のマークが書かれていて、その中で一際目立っていたのは"肆"と書かれた漢数字。それを見て、私は眉をひそめて顎に手を添えた。もしかするとこれって、…。
「アメリアさん、此方へ来てくださる?」
すると今度はシャスティアに呼ばれる。ふと頭に浮かんだ考えが正解だとするならば、シャスティアの見ている灯火台にも書かれているはずだ。
彼女のもとへ走っていき、灯火台の中を確認する。そこにはやはり漢数字が書かれていた。私の考えは合っていそうだ。
「うん。やっぱりそうだ。これなら大丈夫かも!」
「? 何かわかったんですの?」
「任せて!」
口元を緩ませて笑う。
それぞれの灯火台には"壱""弐""参""肆"と書かれた漢数字が書かれていた。どうしてその文字が使われていたのかなんてわからないけれど、でもそのおかげでこの試練はなんなく突破出来そう。そして私はその場から走っていき、火の魔法で順番に壱の灯火台から火を灯していく。
間違わないように底に書かれた漢数字を確認しながら火を灯していき、最後に"肆"と書かれた灯火台に火を灯せば、四つの灯火台に灯された火の色が赤から緑に変化した。
「どうなっていますの?」
[アメリアさま、これは?]
[…! アメリア、これを見てください]
緑になった灯火台の火がゆらゆらと揺らめく。正解っぽい演出にホッと胸を撫で下ろしていると、リヴィスに呼ばれた。
彼女は石板を見ていて、青く光っているその文字は先ほど見たものとちょっと違う。リヴィス曰く、文字が変化したのだそうだ。
「何て書いてあるの?」
["見事正解だ。次は、四つの箱の中から二つの本物の箱を選べ。本物の箱の中には精霊の加護が。偽物の箱の中には地獄の加護が入っている。二つの本物の箱を選ぶ事が出来れば、君たちの前に道は現れる"]
「四つの箱?」
文字を読み終えると、背後からポンッと音がする。
振り向くとそこには四つの箱が現れていた。綺麗に等間隔に並べられたその箱にはご丁寧にラッピングがされている。
「箱というのは、これの事でしょうか?」
[おそらく]
「地獄のあとに加護って普通付かないでしょ」
四つの箱の前に立ち、私たちは互いに顔を見合わせる。
この四つの中から二つの本物を選ぶ。私の運の無さは第二の試練で証明済みだから、選ぶ権利は貰いたくない。
[どなたが選びますか?]
[ぼ、僕はこういうのは苦手です…。アメリアさま、選びます?]
「君は私の運のせいでここに来てしまったのを忘れたのか。リヴィスが選んでよ」
[ワタシの運は主依存なので無理です]
結論。私もプクプもリヴィスもやりたくない。プクプのやりたくない理由はわけるけれど、リヴィスのやりたくない理由はよくわからない。主依存の運って何。
「…仕方ありませんわね。私が選びますわ」
やりたくない私たち三人を見て、シャスティアが声をあげる。四つの箱を順に見つめて、彼女は考える時間も取らずに一つの箱を手にした。赤いリボンが結ばれた箱だ。
「これにしますわ」
[え、早い…]
「シャスティア、もうちょっとよく考えて選んだ方が…」
「こういうのはじっくり考えるよりも、直感でズバッと選んだ方がいいんです。私はこれに決めましたわ」
「……」
眉を下げて、シャスティアを見る。そしてシャスティアは選んだ箱のリボンを解いて蓋を開けた。中に入っていたのは、一枚の紙切れ。"本物"と書かれた紙だ。
[どうやら、本物を引き当てたみたいですね]
「ま。当然ですわ」
口元を緩ませて、シャスティアは満足そうに言う。残りは一つ。どの箱が本物なのか。
「さて、じゃあこの調子であと一つも選びますわ」
残り三つの箱を見つめる。
こういうのはじっくり考えるよりも直感が大切。その言葉の通り、次の箱もシャスティアはすぐに選んだ。緑色のリボンが結ばれた箱だ。
[…もし、偽物の箱を選んだ場合どうなるんでしょう?]
[地獄の加護。と石板には書いてありましたね]
「…またあの手に何かされるのかな」
あの大きな手の事を思い出して肩を震わせる。あんな怖い思いは二度としたくはない。感触は好きだったけれど。
「開けますわよ」
シャスティアは選んだ箱を開ける。中には、一つ目に選んだ箱と同じく一枚の紙が入っていた。書かれていたのは。
「本物、ですわ」
箱に入っていた紙を取り出してシャスティアは私たちにそれを見せる。確かにそこには"本物"と書かれていた。
それを見て、プクプは喜びの声をあげる。その瞬間、ポンッと音を立てて残り二つの偽物の箱が消えた。
「やった! シャスティア凄い!」
「ま。これも当然ですわね」
またも満足そうにシャスティアは言う。すると、石板の文字がまた変化した。
石板の文字をリヴィスは読み上げる。
["おめでとう。君たちは精霊の加護を受け、第三の試練を終了した。先に進め。上で君たちの仲間が待っている"]
読み終えると、奥に進むための道が現れた。上で仲間が待っている。それって、トウマくんたちの事だろうか。
[よかった。これで先に進めますね]
「終わってみれば、第三の試練もたいした事なかったですわね」
「上で仲間が待っている。アンジェラたちの事だよね。きっと」
[おそらくそうでしょう。それではみなさん、先を行きましょうか]
リヴィスの言葉に大きく頷く。
そして私たちは足を動かし、奥に現れた道を歩いていった。今にして思えばもう謎のままだけれど、結局のところ"地獄の加護"っていうのは何だったんだろう。




