風の遺跡・ゼラニウム 2
第一の試練を突破して、私たちは先を歩く。長い長い道のりを経て辿り着いた先にあったのは、またしても大きな扉と広い部屋だった。扉を開いて中に入ると、石で出来たアーチが私たちを迎える。そこには第一の試練の時と同じように精霊文字が刻まれていた。
「"これより先に進むには、運が必要だ。床に並べられた六つの道のうち四つは本物。二つは偽物。さぁ。君たちは突破出来るか"」
「六つの道?」
「それって、これの事かな?」
アーチを潜ると、確かに六つの道があった。等間隔に並べられたそれらの道の間には足場はなく、一つ一つが細くて迷路のように入り組み繋がっている。それはまるで、"あみだくじ"のように見えた。ローデンさんたちもアーチを潜り、それを見つめる。
「これは何でしょうか?」
「どこかで見たことあるな」
「これ、あみだくじか?」
「あみだくじ?」
「アンジェラちゃんは知らんか。わいが子供の頃にちょっとだけ流行った遊びなんやけど」
あみだくじについて簡単に説明する。ローデンさんがアンジェラにあみだくじについて教えている間、私とトウマくんは六つの道の先にある台座を見つめていた。
台座は道の数と同じく六つ。それぞれのゴールの少し先に一つずつ設置されていた。台座の上にはボタンがあって、それを押すとどうなるのか。
「…とまぁ、こんな感じや。どんな風にやってるかは人によって様々やけどな」
「へぇ。世の中にはまだまだそんなゲームがあるのですね」
ローデンさんの説明を聞いて、アンジェラは頷く。あみだくじのルールがわかった所で、私たちはまずアーチに書かれていた言葉の意味を考えた。
「四つの道は本物、二つの道は偽物。つまり、四つは当たりで二つはハズレって事かな?」
「たぶんそうやろうな」
「ハズレの道を選んでしまった場合どうなるのでしょう? 先、…ローデンさんから聞いた話では、もしもハズレを選んでしまったら…その時は奈落の底へ引きずり込まれてしまうっていう話ですけれど」
「奈落の底?」
「…えと、奈落の底はさすがにないかな」
ローデンさん、一体あみだくじの事をアンジェラになんて説明したんだろう。
「まぁ、悩んでいても仕方ない。まずはわいがやってみるで!」
ローデンさんは足を進めて、一つの道を選ぶ。彼が選んだのは右から二番目の道だ。果たしてその道は、当たりなのかハズレなのか。ローデンさんは意を決して歩き出す。細くて長い道。足を踏み外さないように慎重に進んでいき、ゆっくりと時間を掛けてゴールまで歩いていった。
「よっしゃー、ゴールやー!」
ゴールに着いて、両手をあげて声をあげる。
ゴールに着いた直後、台座に精霊文字が浮かんだ。ボタンを押して、選んだ道が本物なのか偽物なのか確かめろ。という事らしい。
「ボタンって、これでええんか」
ボタンを押す。
するとボタンは台座の中に吸い込まれて、入れ違いに白い小さな旗が出てきた。旗には"本物"と書かれている。
「…これは、当たりって事か?」
ボタンを押しても特に何もないところを見ると、どうやらローデンさんが選んだのは本物の道だったようだ。
バラバラと音を立てて、ローデンさんが選んだ道が崩れて落ちていく。残りは五つ。私たちは顔を見合わせて、次に誰が行くのかを話し合った。
「で、では、私が行きます…!」
話し合った結果、次に行くのはアンジェラとなった。彼女はどの道を行くのかを選び、慎重に吟味して一番左の道を選ぶ。
気を付けて。と、声を掛けると不安そうに表情を強張らせたアンジェラが此方を向いて弱々しく頷いた。
「アンジェラちゃん! 下は見ないように! ゆっくりでええから!」
ローデンさんが手を振って、アンジェラに言う。
"下は見ないように"って言われると逆効果な気がするけれど、アンジェラはしっかりと前を見つめてゆっくりと着実にゴールを目指した。ゴールの直前に伸ばされたローデンさんの手に掴まり、アンジェラはそのまま道を渡り切る。
「ほい到着。頑張ったなアンジェラちゃん」
「ありがとうございます」
口元を緩ませながらお礼を言い、アンジェラは次に台座のボタンを押す。
白い旗には、"本物"と書かれていた。
「やった、当たりや!」
「…ほっ」
本物の文字を見て、ローデンさんとアンジェラは手を叩き合わせる。バラバラと音を立てて、アンジェラが選んだ道が崩れて落ちた。残る道はあと四つ。再びトウマくんと話し合い、次は私の番となった。
「…えと、」
四つの道のうち、本物は二つ。
どの道を選ぼうか。
「アメリアさん、頑張ってください!」
「こういうのは思い切りが大事やで!」
向こう側から、ローデンさんとアンジェラの声が聞こえてくる。トウマくんの方に顔を向けると、トウマくんも拳を握って"大丈夫"だと励ましてくれた。
「…よしっ」
深く息を吐く。
私は、左から二番目の道を選んだ。
眉をひそめて慎重に進む。途中、パキッという小さな音が聞こえてきたけれど気にせず進み続けた。ゴールに辿り着き、台座のボタンを押す。白い旗が出てきて、そこに書かれていた文字を読んでみると…。
「…え?」
旗には、"偽物"と書かれていた。
「にせ、…えっ、偽物?」
見間違いかと、もう一度文字を読んでみる。見間違いなどない。確かにそこには"偽物"と書かれていた。
私は、ローデンさんたちと顔を見合わせる。選んだ道が偽物…つまりハズレだった場合、何が起こるのか。眉を下げて辺りを見渡していると、それは突然起こる。
「アメリア!」
トウマくんの慌てた声が聞こえる。
それと同時に右肩に鋭い痛みが走り、私は後方に飛ばされた。背後にはもう道などなく、あるのは足場のない穴だけ。
「!?」
このままでは落ちてしまう。
そう思ったその時、背後から何かが私の身体を包んだ。見ると、それは大きな手だった。穴から伸びてきた大きな緑色の手。伝わってくる感触は柔らかい。
「え、ちょっ…!?」
そして、そのままその手は私を掴んだ状態で穴の中へ。
物凄い速さで下まで落ちていく手にどうする事も出来ず、私はただただそれをじっと見つめているしかなかった。
「アメリアさん!」
「アメリアちゃん!」
「…っ、」
みんなの私を呼ぶ声が遠退いていく。
どこまで落ちていくんだろうか。そう思いながら、私は胸の内で沸々と沸き起こる恐怖にぎゅっと目を閉じた。




