風の遺跡・ゼラニウム 1
黒ゴマの一声で、それは再び始まった。
現在、私は二つ目の柱の中に居る。
シャスティアが居なくなったとの連絡を受けて、私はその数時間後に学校の寮にてアンジェラとローデンさん、トウマくんと合流した。一体どういう事なのかと聞いてみると、アンジェラ曰く、シャスティアは突然居なくなったのだという。夕御飯の時間だからと部屋まで彼女を呼びに行った時に気付いたのだとか。
私たちは手分けをして学校の近くや街の中、彼女の行きそうな場所を片っ端から捜した。けれど何処にも彼女の姿はなかった。うーん。と寮に戻ってきた私たちは頭を抱え、他に捜してない所はないかと模索する。すると、そこに突然現れたのが黒ゴマだった。
"また抜け出してきたのか"とトウマくんが彼女に近付いたその時、黒ゴマは声を高らかに鳴き声をあげた。それは一瞬の出来事だった。気が付いたら私は、見知らぬ遺跡の中に居たのである。
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「"ここから先を行きたければ、三つの試練を突破し、力を示せ。己の知恵を我の前に見せよ"。…なんやこれ?」
黒ゴマの一声で遺跡の中にやって来たのは私だけではなく、その場に居たアンジェラたちも一緒だった。周囲を漂う空気から、ここが柱の中だと教えてくれたのはローデンさんである。突然どうしてこんな所にやって来てしまったのか。わけがわからずアンジェラは不安そうな表情を浮かべていた。
黒ゴマの意図はわからないけれど、意味もなく彼女が自分たちをこんな所に来させるわけがない。ローデンさんとトウマくんは話し合うけれど、三、四回のラリーが続いたところで、いくら悩んでも答えは出ないと互いに肩を竦めて、とりあえず先に進んでみようと言った。そして、それから数分後に先ほどの言葉がローデンさんの口から呟かれたのである。
「どういう意味でしょうか?」
「さっぱりわからん」
先を進んで、辿り着いた場所にあったのは大きなアーチ型の扉だった。扉には文字のようなものが刻まれていて、"精霊文字"と呼ばれたその文字をローデンさんがすらすらと読み進める。三つの試練を突破し、力を示せ。とは、どういう意味だろう。
「…というかローデンさん、精霊文字読めたんですね。普通に読んでて吃驚しました」
「ふふん。これも勉強の賜物や。精霊文字専門家と呼んでくれたまえ」
鼻高々にローデンさんは言う。
扉を開けて中に入ると、そこは広い部屋だった。部屋の真ん中には台座があるだけで、あとは特に何もない。奥に続く道もなく、行き止まりなのかと私は首を傾げた。
「ここは…?」
「なんやこれ。キューブ?」
台座の上には、四角い形の石が置かれていた。ローデンさんはそれを持ち上げまじまじと見つめる。石には不思議な模様が刻まれていた。台座の奥にある壁にも、同じように不思議な模様が刻まれている。けれど、その模様は石に刻まれているものとは違って不規則な形をしていた。
「何でしょうか、これ?」
「うーん」
石を見つめながら、ローデンさんと顎に手を添えて眉をひそめる。石に刻まれた模様は、扉の形をしていた。私とローデンさんが石とにらめっこをしている間、アンジェラとトウマくんも奥にある壁の模様を見つめる。
「…この模様、」
アンジェラが手を伸ばして壁に触れる。すると次の瞬間、壁の模様が光を放ち、彼女が触れた部分の模様だけが動きを見せた。
シュンと音を立てて一瞬で動いたそれを見て、アンジェラたちは目を見開いて顔を見合わせる。彼女が壁に触れた時、ローデンさんが持つ石にも変化があった。模様の一部分に光が灯ったのである。
「…ハッ! なんか今わいわかったかもしれん!」
石と壁の模様を交互に見つめて、ローデンさんは声をあげる。
ローデンさんは石を持ったままアンジェラたちのもとへ歩いていき、石の模様と壁の模様を見比べた。
「先生、何かわかったのですか?」
「まぁ、ちょいと見ててみ。…てか、ここで先生って言わんでくれる? なんかこそばゆいわ」
眉を下げて笑い、手を伸ばして壁に触れる。石の模様と壁の模様を照らし合わせながら、彼は触れている箇所を動かした。シュンと音を立てて真上に動いたそれは光を放つ。
「やっぱり思った通り。これはパズルや」
「パズルですか?」
「せや。この石に刻まれた模様を元に、壁に刻まれた模様もこれと同じ形にせなあかんっちゅー事や」
「…なるほど。だからこの模様、変な形だったんですね」
「ローデンさん、よくわかりましたね」
「はっは。わいって天才なのかもしれん!」
もう一度、鼻高々にローデンさんは言う。
これがパズルだとわかれば、あとは謎を解くだけ。それから私たちは、石の模様を見る係と壁の模様を動かす係に分かれて効率良くパズルを解いていった。そして数分後。二つの模様は同じ形になる。
「よし。これで終わりだ」
「これで完成?」
「そのはずや。光が全部点いてる」
「見てください。文字が浮かんできました」
壁の模様が石に刻まれた模様と同じ扉の形となって、扉の上に文字が浮かんでくる。この部屋に入る前に見た精霊文字だ。精霊文字は、ローデンさんの担当だ。
「何て書いてあるんですか?」
「…"第一の試練は無事に終了。この扉の先に行き、第二の試練を受けよ"」
「第二?」
「第一の試練って事は…今のパズルが、さっき書いてあった三つの試練の一つ目だったのか」
「って事は、こんなんがあと二つもあるんか。しんど」
文字を読むと、石と壁の模様が消えて奥に進むための道が現れた。
「道が出てきたよ」
「どこに続いているんでしょうか?」
「はぁ。まったく…。けったいな事になったなぁ」
「どうします?」
「どうするもなにも。行くしかないやろ。柱ん中に来た時点で、わいらには逃げ場はないねんから。…ほんとにあの黒山羊、ここにシャスティアちゃんが居なかったら罰として丸焼きにしたるわ」
「丸焼きはやめてください」
眉をひそめて呟いたローデンさんをトウマくんは睨み付ける。この道の先には一体何が待っているのだろうか。警戒を忘れずに、私たちは互いに顔を見合わせて足を動かした。




