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泥棒を捕まえた






「泥棒だ! 誰かそいつを捕まえてくれ!!」

「「?」」

「何ですの? 泥棒?」


 声の方へ顔を向ける。


 何事かと思いながら頭に"?"を浮かべていると、広場方面から此方に向かって誰かが走ってくるのが見えた。


「何?」

「泥棒ですって」

「まぁ。大変ね」

「泥棒だと!? オレに任せろ!!」


 泥棒と聞けば、商店街に居る人たちは様々な反応を見せる。

 私たちのように疑問符を浮かべている人も居れば、他人事のように振る舞う人、そして泥棒を捕まえようと意気込む人。そんな人たちの間を縫って走ってくるのは、まだ幼い子供だった。おそらくあの子が泥棒だ。フードを被っているから性別はわからないけれど、その子はパンを何個も抱えて走っている。


「待てこのガキ! 今日という今日はマジで許さんからな!!」

「はぁ、はぁ…っ」


 子供を追い掛ける男の人の声が聞こえる。その場に居た人たちも何とかして子供を捕まえようとしているけれど、なかなか上手くいかなかった。こんな人混みの中では、捕まえるのは一苦労だろう。


「…アメリアさん。少しこれを預かっていてください」

「え? シャスティア?」


 そんな中、私に荷物を預けてシャスティアが前に出た。何をするのだろうと思いながら見つめていると、彼女は眉をひそめて此方に走ってくる子供の姿をじっと見つめた。そして子供が自分の横を通り過ぎようとした時、その子の腕を掴んで強引に足を止めさせる。


「っ!?」


 子供は、吃驚してシャスティアの方に顔を向けた。強引に止まらせたためか、子供の足元にはニ、三個のパンが落ちている。


「…貴方、何故まだそんなみすぼらしい格好をしているのです?」

「え?」

「それに、その手癖の悪さも直せとあれほど言いましたわよね? どうして聞かないのですか?」


 子供を見つめて、シャスティアは言う。


 そこへ、白いエプロンを付けた男の人が走ってきた。私がよく行くパン屋の店主だ。


「はぁ。はぁ…。や、やっと追い付いた。はぁ。…助かったよ、君たち」

「!?」


 男の人の顔を見て、子供は逃げ出そうとする。しかしシャスティアに腕を掴まれているため逃げる事は出来なかった。


「さあ。もう逃げられないぞ。さっさと盗んだパンを返せ!」

「嫌だ!」

「はあ!?」

「ちょっとお待ちくださいませ。…確認いたしますが、この子が貴方のお店で盗みを?」

「…ああ。それも一度や二度じゃない! 何度もやられてる! おかげでこちとら大損してんだ!」

「あら。そうでしたの。それは申し訳ない事をしましたわ。この者に代わって私が無礼をお詫び申し上げます」

「ん? なんだあんた。こいつの知り合いなのか?」

「ええ。この方は以前より私の屋敷で使用人をしておりまして、度々申しあげているのですがなかなか貧民の頃の癖が治らず苦労していますわ」


 シャスティアと男の人の会話は続く。そんな二人の会話を私とアンジェラは目を瞬かせながら聞いていた。


 もちろん、あの子供が"使用人"というのは嘘っぱちである。口から咄嗟に出たデマカセにしてはありきたりだけれど、しかしどうしてシャスティアはあんな嘘を吐いているのか。


「へぇ…。 まさかこいつを雇う奴が居るとはな。使用人って事は、あんたどこぞの貴族だろ? 口を出してきたからにはちゃんと責任は取ってくれんだろうな?」

「当然ですわ。使用人のミスは雇い主である私のミスですもの。…この者が盗んだパンの代金、今までの分も含めて全額お支払いいたします」

「!」

「ほう。そりゃありがたいね。まぁ、俺も鬼じゃねぇから、払ってくれればそれでいいさ」

「それで、おいくらですの?」

「ああ。ちょっと待ってな」


 言って、男の人はズボンのポケットから紙を取り出してブツブツと計算を始める。子供に盗まれたパンの種類と名前を逐一その紙に書いていたみたいだ。


 そして、金額を伝えられたシャスティアは男の人にお金を渡して私たちの元へ子供を連れて戻ってくる。男の人はお金を貰って満足そうに踵を返して帰っていった。


「まったく。余計な出費でしたわ」

「おかえりなさい、シャスティアさん」

「どうして助けてあげたの?」

「別に助けてはいませんわ。私はただ単に、この子に手を差し伸べただけです。それと、"自分より年下の子供には最低限の優しさを見せていけ"と言われていますので」

「誰に?」

「ローデンさまに決まってますでしょ。ローデンさまのお言葉は、何が何でも守らなければいけませんわ。あの方の隣に立つに相応しい淑女になるためにはこういう修行もやっておかないといけませんもの!」

「……」


 目を輝かせながら、シャスティアは言う。


 きっと今はローデンさんの事で頭がいっぱいなんだろうな。と、眉を下げて口元を引きつらせながら私は彼女を見ていた。


「…あ、あの」


 そこで、子供が話し掛けてくる。顔を向けると、子供はフードを脱いで私たちに顔を見せてきた。


 フードの下に隠れていたのは、緑色の髪と幼い男の子の顔。彼は眉を下げながら私たちを見つめていた。


「助けてくれてありがとうございました。…感謝します、貴族さま」

「謝罪など結構ですわ。これに懲りたら盗みなんてお辞めになることね」

「あ、あの、…よかったらこれを…っ! ほんのお礼です!」


 そう言って、男の子がシャスティアに渡したのは彼の髪と同じ色の宝石が装飾された指輪だった。


 キラキラしていてとても高そうな指輪だ。


「これは何ですの?」

「指輪だね。凄く綺麗」

「貴方、この指輪を何処で…って」


 指輪を見て首を傾げたシャスティアは、男の子の方に顔を向ける。しかし男の子はいつの間にかその場から居なくなっていた。きっと家に帰ったのだろう。


 指輪を渡して即帰宅とはどういう事だと、シャスティアは眉をひそめて息を吐いた。


「良かったですね、シャスティアさん」

「…こんなものを貰った所で嬉しくもなんともありませんわ」

「あの子の気持ちを無下にしちゃ駄目だよシャスティア」

「わかっています。…さ、お買い物を再開しますわよ。まだまだ買いたいものは山ほどあるのですから」


 言って、シャスティアは歩き出す。

 歩き出した彼女の顔は赤く、それを見て私とアンジェラは顔を見合わせて笑った。


 …その日の夜、"シャスティアが居なくなった"と端末に連絡があった。



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