三人で買い物
[…では、アメリア。ここで質問です。精霊が生まれるにはどうしたら良いでしょうか?]
「えっと、…確か精霊が生まれるには、妖精から進化する必要があるんだよね」
学校の訓練場に降ってきた巨大な柱の中から無事に帰ってきて数日後。私は家の自室にてリヴィスから精霊についてのあれこれを学んでいた。ほんの数時間足らずで消えてしまった柱について話しておくと、どうやらあのあとローデンさんが先生たちに事情を話して"あれは集団で見た錯覚"という事にしたらしい。
錯覚…っていうのは些か苦しいような気がするけれど、先生たちはそれで納得し、生徒たちにもそう伝えて、事態はそんなに大きくならずに済んだ。いや、まぁ、錯覚っていう事にしてしまえば面倒にならないから別にいいっちゃいいんだけれど…。本当にそれでいいんだろうか。
[正解です、アメリア。精霊が生まれるには、妖精が進化する必要があります。しかしすべての妖精が精霊に進化できるわけではありません。精霊になるには"精霊の果実"という実を食べなければならないのです]
「精霊の果実?」
[精霊の果実とは、精霊の森の奥深くに存在するユグドラシアの樹に実る果実の事です。それを口にしなければ妖精は精霊に進化する事は出来ません]
「じゃあ、リヴィスもその実を食べたの?」
[はい。ワタシも、他の精霊たちもユグドラシアの樹から果実を貰い受け、口にしました。そして、進化したのです]
リヴィスは言う。
精霊の森は、世界の中心にあるのだという。
「世界の中心? …あそこは海ばかりだった気がするけど?」
[精霊の森には"ミラージュ"という魔法が掛かっているので、普段は人間には見えないようになっているのです]
「ミラージュ?」
[精霊の森が人間の前に姿を現すような事があれば、それは…。世界が何らかの危機に陥った時でしょうか]
「……」
人間の私たちには見えない森、精霊の森。
それに、ユグドラシアの樹か。
ちょっと興味あるな。
[…では、次にワタシたちが使用する"精霊魔法"について勉強しましょうか]
「精霊魔法?」
[ええ。…、ですが残念なお知らせですアメリア。この家にどなたか訪ねて来られたようですよ]
「え?」
リヴィスの言葉に首を傾げる。
そこへ、"ピンポン"とインターホンが鳴った。今はお母様がお出掛け中で居ないので来客は私が迎えなければならない。
面倒くさいなぁ。と、思いながら部屋を出て一階へ降りる。玄関の扉を開ければ、そこにはアンジェラとシャスティアの姿があった。二人の突然の来訪に疑問を持ち、私は頭の上に"?"を浮かべる。
「アンジェラ? それにシャスティアも…。どうしたの?」
「…ほら、忘れてる。言った通りでしょ?」
「来てみてよかったですね」
ぽかんとしている私を見て、シャスティアは眉をひそめる。
一体何の話をしているのか。よくわかっていない様子の私に彼女は呆れながら口を開いた。
「貴女。一昨日の約束もう忘れましたの?」
「一昨日?」
「今日は絶好の"お買い物日和"ですわ。一昨日、授業が終わった放課後に三人で約束したじゃありませんの」
「約束…、買い物…。……あぁ!?」
そこでやっと思い出す。
目を見開いて声をあげれば、二人は顔を見合わせてそれぞれ反応を示した。
「はぁ。…しっかりしてくださいませ」
「ご、ごめん」
「大丈夫ですよアメリアさん。まだまだ日は昇っていますから、お買い物は十分に楽しめます」
「本当にごめん。すぐ準備してくるから!」
眉を下げながら謝り、私は踵を返して慌てて部屋に戻る。
部屋に戻ると、リヴィスが既にクローゼットの中からお出掛け用の服を何着かベッドの上に並べてくれていた。水の力を利用して私たちの会話を聞いていたようだ。便利。
[あの方たちとのお約束があったのですね。言ってくださればお勉強は延期にしたのですが]
「気にしないでリヴィス。精霊魔法についてはまた後日教えて」
[わかりました。では、ワタシは戻りますね。また必要な時にお呼びください]
頭を下げて、リヴィスはイヤリングの中に戻る。服を着替え終えて、鏡でおかしな所はないかと確認したあと、私もアンジェラたちのもとへ戻った。
あ。お母様に書き置きしていかないと。
+
そして、私はアンジェラたちと一緒に街の商店街へと向かう。彼女たちと買い物をするのは随分と久し振りだ。
「これと、これと…、あとこれも貰えるかしら?」
「まいど」
そう言って、シャスティアは手に取ったものを次々と店主に渡していく。
彼女が手にしたのがどれもとても高そうな物だったので、私は店内に消えていく店主の後ろ姿を見つめながらシャスティアに話し掛けた。
「シャスティア、そんなに買って大丈夫なの?」
「問題ありませんわ。お金はたんまりとありますので。それで、貴女は何か買いたいものは見つけたのかしら?」
「ううん。まだ。私はシャスティアと違ってあまりお金持ってないからさ。厳選しないと」
肩を竦めて答える。
私はシャスティアと違って、お金はたんまりとないから財布と相談しながら限られた予算内で気に入ったものを見つけないと。
「…うーん」
「アメリアさんアメリアさん、見てください!」
シャスティアと別れて、商品棚に置いてある物を見ながら悩んでいるとアンジェラが声を掛けてくる。
振り向くと、彼女は箱を持っていて口元を緩ませながら近付いてきた。
「アンジェラ、それは?」
「お店の奥の方にあったんです。アメリアさんにもお見せしたいと思って」
「?」
アンジェラから箱を受け取る。
緑色の小さな箱。特に何か仕掛けがあるとかではないみたいだけれど…。
「開けてみてください」
「え? いいの?」
「はい」
アンジェラの言葉を聞いて、私は頭に"?"を浮かべながら箱の蓋の上に手を置く。中には何が入っているのだろう。アンジェラが見ている手前、開けないという選択肢はない。恐る恐る蓋を開けてみる。すると…。
「…っ!?」
蓋を開けた直後、パンッという音と共に中からピエロのぬいぐるみが勢いよく飛び出してきた。飛び出してきたピエロが顔面に当たって鈍い痛みが襲ってくる。
驚いて目を見開けば、アンジェラはくすくすと笑って笑みを浮かべた。
「ふふふ。開けてしまいましたね」
「アンジェラ、これは…」
「びっくり箱というらしいです。面白そうだったので買ってみました」
「……」
ふふふ。ふふふふ。と、笑い続けるアンジェラ。足元に落ちたピエロを拾い上げて、眉を下げて私も口元を引きつらせて笑った。どうやらアンジェラは"びっくり箱"というものを見たことがなかったらしく、店主のオススメで好奇心から買ってみたという。説明を聞いて、まずは私で性能を試してみたらしい。
一回やったあとでも、ピエロを箱の中に戻せばもう一度誰かを驚かせる事が出来るのだそうだ。
「驚きましたか? アメリアさん?」
「…あー、うん。驚いた。驚いたよ」
びっくり箱に驚いたというより、アンジェラがびっくり箱を持ってきたって事に驚いたよ。飛び出できたピエロも、なんかちょっと可愛いし。
店の奥にまだ何個かあるみたいなので、私も買ってみようかと思います。あとでローデンさんあたりに試してみよう。
「…?」
その時、どこからともなく"泥棒!"という声が聞こえてきた。




