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水の洞窟・睡蓮 3





 トウマくんとアイシクルが、ウンディーネの注意を引いてくれている。


 その隙に、私は彼女に気付かれないようにそっと足を動かし、さながら忍者のように自身から放つ気配を殺しながら岩陰に隠れてタイミングを伺っていた。


[光よ、我らを守れ! ルクトシールド!]

「注意を向けるだけでいい! 攻撃はするな!」


 ウンディーネの放つ魔法を結界魔法と防御魔法を駆使しながら上手く立ち回るトウマくんたち。


 攻撃はせず、防御だけでその場を乗り切るのは相当な苦労を要するのだろう。遠くから彼らを見ていると、いかにそれが大変な作業なのかちょっとだけわかる気がした。


「……」


 ウンディーネが完全に私に背後を向けている。今が絶好のチャンスだ。私は手に持ったイヤリングを強く握り締めて、気配を感じ取られないようにウンディーネに近付いた。


 "契約の呪文"は、なんとなく覚えている。イヤリングを耳に付けて、足元に魔法陣を描いた。スッと息を吸って呼吸を整える。


[水の流れよ! 我を脅かす悪しき者を滅せよ! アクアセイバー!]

「っ!?」


 ウンディーネの手から放たれた無数の水の刃がアイシクルを襲う。凄まじいスピードとパワーに圧倒され、アイシクルは避ける事はおろか結界を張る事すら出来なかった。


 身体中に傷を作りながら、同時に生み出された風に追いやられてアイシクルは吹き飛ばされる。岩壁に背中を強く打ち付け、彼はその場に仰向けに倒れた。


「アイシクル!」


 トウマくんが叫ぶ。

 ごほごほと咳き込みながらゆっくりと身体を起き上がらせて、アイシクルは眉をひそめながら表情を歪ませた。


 そんな彼の元に、ウンディーネは飛んで近付いていく。


「ぐ、…」

[……]


 腕に力を込めるも、なかなかそれ以上は起き上がれない。それだけウンディーネの放った刃の力が強かったようだ。


[……]


 ウンディーネはアイシクルを見下ろす。


 その表情は苦痛に歪んでいた。


[あなたが、…あなたが、私…ワタシを…ワタシを…っ!]

「…?」

「ウンディーネ!」


 ウンディーネを呼ぶ。

 声に反応して、彼女は私の方に身体を向けた。

 ウンディーネが顔を向けた直後、耳に付けたイヤリングが小さく音を鳴らす。


 そのまま"契約の呪文"を唱え始めれば、魔法陣の光は一層強くなり、イヤリングも激しく震え始めた。


[…!]


 イヤリングの存在に気付いたのか、ウンディーネは眉をひそめる。


 アイシクルから少し離れ、彼女は手を伸ばした。手のひらから水の球を生み出し、私を攻撃しようとする。けれどそれはトウマくんによって妨害された。


「…光よ。動きを止めろ」

[っ!?]


 そして彼女は、アイシクルの放った光の魔法で身体を拘束される。背後を向けて油断したか、ウンディーネはアイシクルの方に顔を向けた。


 彼は立ち上がっていて、じっとウンディーネを見つめている。


「…ウンディーネ、すまない」

[!]

「君がこうなったのは俺にも責任がある。謝っても謝りきれないが、…許してくれとは言わない。一生許さなくてもいいから、だからもう、これ以上この子たちを巻き込むのは止めろ」

[……]


 アイシクルは言う。しかしその言葉と声は彼のものではなかった。彼の言葉を聞いて、トウマくんは眉をひそめる。


[ワタシは、…ワタシは、あなたのせいで、]

「本当にすまない。……俺は、君を傷付けてばかりいるな」

[……]

「…頼む。これ以上抵抗はするな。彼女の持つイヤリングの中に入れば、君は元に戻る。いつもの、優しいウンディーネに戻ってくれ」

[……、]


 口元を緩ませる。

 それを見たウンディーネは涙を流し、目を閉じた。


 そして、私は"契約の呪文"を唱え終える。


「精霊ウンディーネ。我の声に応え、今こそ契約を果たせ。我の名はアメリア!」


 唱え終えると、ウンディーネの身体が青く光を放つ。それと同時にイヤリングに装飾された透明色の宝石が鮮やかな青色へと変化した。黒一色だったウンディーネの身体が元の水色に戻っていく。光の拘束が消えて、ウンディーネはゆっくりと目を開けた。


「よし! 成功だ!」


 トウマくんが歓喜の声を上げる。


 ホッと胸を撫で下ろし、私はその場に座り込んだ。安全だとわかり、黒ゴマが近付いてくる。


[メェ~]


 顔を押し付けてくる。


 "お疲れ様"と言っているようだ。


[…アメリア・ラインハーツ]

「!」


 そこに、ウンディーネも近付いてくる。顔をあげれば、そこには優しい表情を浮かべた彼女が居た。


 口元を緩ませて、ウンディーネは私を見つめる。


[ありがとうアメリア。ワタシを解放してくれた貴女に感謝いたします]

「え? あ、いえ! その、私は…!」

[今この時より、私は貴女を主と認め、これから先の貴女の未来を守りましょう]

「…え、あ」


 吃驚して、目を見開く。


 そうか。契約したんだから、自然とこういう流れにはなるよね。必死すぎてちょっと忘れてた。


「アイシクル、大丈夫か?」

「ん、…ああ。うん。大丈夫。だけどなんか、頭が重い」

「お前、さっきウンディーネに何言ったんだ?」

「…? 何の事だ?」

「覚えてないのか?」

「俺、何か言ったのか?」

「……、いや」


 アイシクルの言葉に、トウマくんは眉をひそめる。そんな彼を見つめて、アイシクルは頭の上に"?"を浮かべた。


 そのあと、私たちはウンディーネに事情を話す。かくかくしかじかと内容をかいつまんで伝えれば、彼女は顎に手を添えて"なるほど"と頷いた。


[そうだったのですか。それで貴女たちはここに…]

[メェ~]

「ただ黒ゴマを連れ戻しに来ただけなのに、大変なことになったよね」

「そうだな」

「ここに入ってきた時は、まさかウンディーネと契約することになるなんて思わなかったもんな」


 メェ~。と黒ゴマが鳴き声をあげる。


 ウンディーネは黒ゴマの頭を撫でて、手のひらをくるりと回した。すると、私たちの背後にポータルが現れる。


[これで、貴女たちは外に出られます]

「ありがとう、ウンディーネ」

[いえ。これも、主になった貴女のためですから]

「…なんかくすぐったいな」


 口元を緩ませて優しく言われると、なんだか恥ずかしくなってしまうよ。


「…でも、どうしてウンディーネはあんな風になってたんだろ?」


 腕を組んで、トウマくんは言う。


 黒一色になっていたウンディーネ。彼女が入っていた球…精神鏡(せいしんきょう)も黒く染まっていたし、確かにどうしてそんな事になっていたのだろう。


[おそらくそれは、ワタシが"囚われた"からだと思われます]

「囚われた?」

[はい。…彼を憎む悪しき想いに、ワタシは囚われてしまった。だから、あのような姿となったのでしょう]

「彼って?」

[………]


 そこまで言って、ウンディーネは口を閉じる。そのあとは教えてはくれないみたいだ。


 するとそこで、トウマくんの端末が音を鳴らす。ローデンさんの顔が映し出されて、私たちは無事に黒ゴマを見つけたことを彼に伝えた。


『おー。それは良かったわ。めっちゃ心配してたんやで。でも、元気そうで何よりや』

「今からそっちに戻ります。ポータルも開けてもらったので」

『わかった。待ってるで』


 通話が途切れる。


 そして、私たちはポータルの中に足を踏み入れた。


[アメリア]

「ん?」


 柱の外を目指して歩いていると、ウンディーネが話し掛けてくる。


 顔を向けると、彼女は私に小さな球を渡してきた。青い色の球。小さくなった精神鏡だ。


[これを貴女に預けます。アクセサリーにでも使ってください]

「いいの?」

[ええ。ワタシにはもう精霊壺がありますから]


 口元を緩ませて答える。


 あとで鞄に付けよう。お守りとして。


[それと、貴女には教えておかないといけません]

「?」

[ワタシの(あざな)です]

「あざな?」

[わかりやすく言うなら、ニックネームでしょうか。…ワタシたちの存在は広く深く人間たちや妖精たちに知れ渡ってしまっているため、本名のまま行動するのは禁じられているのです。ですから、字が必要なのですよ]

「…」


 字。ニックネーム。

 ウンディーネは言って、私の前に立つ。足を止めて、私は彼女を見つめた。


 私は、彼女の字を知っている。


[今こそ伝えましょう。ワタシの字は、リヴィスと申します。以後、このリヴィスという字でワタシのことはお呼びください]


 そう言って、ウンディーネ…リヴィスは胸に手を当てて深々と頭を下げた。



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