水の洞窟・睡蓮 1
黒ゴマを探して、右往左往。
洞窟の奥を目指して歩いている途中、何度か私たちは魔獣と遭遇した。
「氷結一閃!」
剣先を地面にくっ付けて、それをマッチ棒に火を着けるかのように思い切り振り上げる。そこから一直線に鋭く伸びた氷の刃が勢いをそのままに襲い掛かってくる魔獣の身体を貫いた。
[グオオオオ!]
「アメリア、そっち頼む!」
「任せて! 水の流れよ敵を撃て! アクアショット!」
[グアアアッ!]
「まだ来るよ!」
「炎よ燃えろ! フレイム!」
黒ゴマを探してここまでの道のりでどのくらいの魔獣を倒してきたのだろう。その度にトウマくんがクリスタル・ウェポンという紫色の宝石を手にして戦い、私たちも迫り来る魔獣に向けて魔法を放ちながら、なんとかトウマくんの足手まといにはならないように頑張っていた。
「…黒ゴマ居ないな」
「うん」
「見渡せど見渡せど同じような景色ばかりでよくわかんなくなってくるよ」
黒ゴマ探しと魔獣退治を繰り返しながら洞窟の奥地を目指して歩き回る事数十分。現在私たちは、疲弊した体力を回復するために休息を取っていた。トウマくんの端末に映し出された地図を眺めながら、今どの辺りを歩いているのだろうかと話し合う。
トウマくんの端末でここまでの道のりを地図にして書き残しているから"迷っている"なんて事はないだろうが、こうも同じ景色ばかり続いていると先に進んでいるのかどうか不安になってくる。
「これ、本当に黒ゴマ見つかるのかな?」
「見つからなかったらどうするんだ?」
「どうするも何もないよ。見つかるまで根性で探すんだ。黒ゴマはここに入ってきたんだから、きっとどこかに居るって」
キョロキョロと辺りを見渡してみるけれど、どうやらここにも黒ゴマは居ない。
トウマくんは端末を操作して地図上の現在地に素早くバツ印を書き記した。地図を見ると、もう結構な距離歩いてきたみたいだ。
「結構奥深くまで歩いてきたけど、どこにも黒ゴマが居た形跡はないな」
「黒ゴマ、どこに居るんだろうね」
「…ここまで探して居ないとなると、あとはウンディーネの部屋しかないんだけど…。もしかしてそこに居るのか?」
「ウンディーネの部屋?」
「この洞窟の最奥にあるんだ。精霊ウンディーネが居る部屋。もしかしたら黒ゴマはそこに居るんじゃないかなって」
「どうしてそう思うの?」
「考えられる理由があるとすれば一つなんだけど…」
顎に手を添えて、トウマくんは眉をひそめる。それ以降何も喋らなくなってしまった彼を見て、私とアイシクルは顔を見合わせて頭の上に"?"を浮かべた。
するとその時、遠くの方から甲高い動物の鳴き声のようなものと魔獣の声がほぼ同時に聞こえてくる。それを聞いて、私たちは声の方へ顔を向けた。
「この声、」
「あっちの方からだ」
鳴き声は、それからもずっと聞こえてくる。その声はまるで助けを求めているみたいだった。
この声は、もしかしたら黒ゴマのものかもしれない。そう思った私はトウマくんの方に顔を向ける。トウマくんも私と同じ考えだったらしく、私たちは互いに顔を見合わせて、急いで声のした方へ走っていった。
+
[メェ~!]
[グオオオオっ!!]
鳴き声を頼りに走り続けた先にあったのは壊れた大きな鉄の扉だった。それを見て中に入ると、そこには魔獣に襲われている黒ゴマの姿が。
黒ゴマの周りには結界魔法が張られていて、魔獣はそれを壊そうと体当たりを繰り返している。
「黒ゴマ!」
[メェ~!]
「大変! 助けなきゃ!」
「シヴァリウス!」
いくら結界魔法が強力だからといっても、耐久値というものには逆らえない。あのままではいずれ結界は壊されて、黒ゴマが危険にさらされてしまう。
トウマくんはクリスタル・ウェポンを取り出して魔獣のもとへ向かう。私とアイシクルも足元に魔法陣を描いて、魔獣の目線を此方に向けさせようと魔法を放った。
[グアアア!!]
気配を感じ取ったか、魔獣は私たちに気付いて咆哮をあげる。
放たれた魔法はその咆哮によって消されてしまった。
「氷結一閃!」
剣を振って、トウマくんは刀身から氷の刃を放って攻撃する。しかし魔獣はそれを受ける前に飛び上がり、大きく口を開けて炎を吐き出した。
トウマくんは再び剣を振って、吐き出された炎を氷の盾で防ぐ。魔獣が降りていく隙をついて、私は呪文を唱えて魔法を放った。勢いよく放たれた水の球が魔獣の身体に直撃する。
「炎の力を! ブレイズネス!」
アイシクルの唱えた魔法がトウマくんの身体を包み込む。力を蓄えた彼はそのまま三度剣を振って氷の刃を魔獣に向けて放った。
先程よりも鋭く強力な氷の刃が魔獣の身体を貫く。その後、魔獣は身体と口から大量の血と耳をつんざくほどの断末魔をあげてその場から消えていった。同時に黒ゴマを囲っている結界魔法も消えて無くなる。
「黒ゴマ!」
[メェ~]
「良かった無事で! ったく、めっちゃ探したんだからな!」
[メェ~]
魔獣が居なくなったのを確認して、トウマくんは黒ゴマのもとへ。
目線を合わせて黒ゴマの頭を撫でると、黒ゴマは頭を下げてトウマくんが持つクリスタル・ウェポンの刀身をペロリと舐めた。アイスキャンディーだと思ったのか。
「…それにしても、どうして魔獣がここに? 魔獣はこの部屋には入れないはずじゃ」
[メェ~]
「ん? どうした黒ゴマ?」
「! トウマくん、見て!」
「…?」
部屋の中をくまなく見渡してみる。部屋の奥には台座があった。その上には球が置かれていて、私はその球を見つけてトウマくんを呼ぶ。
本来、ここの台座に置かれている球の色は水色のはずだ。けれど、今私の目の前にある球の色は禍々しくてとても黒々とした気味の悪い色をしている。球はそれと同色の鎖で守られていて、しゃらしゃらと小さく音を鳴らしていた。
「なんだこれ…?」
「鎖と、球?」
「なんだか不気味な色してるな」
球に触れようと手を伸ばす。
しかし球は"触るな"とでも言うように私の手を拒絶した。
小さな痛みが手に伝わる。
「アメリア、大丈夫?」
「うん。大丈夫。…トウマくん、これって」
「球が封印されてるのか? どうして…?」
顎に手を添えて、トウマくんは眉をひそめる。すると次の瞬間、球を守っていた鎖がパキンと音を立てて地面に落ちた。
鎖が無くなると、球は宙に浮いてカタカタと震え始める。震えは徐々に大きくなっていって、バチバチと大きな音を鳴らした。そして球は姿を変えて私たちの前に現れる。
「っ、」
「な、なに…!?」
「…!」
[メェ~!]
その姿を見て、私とトウマくんは目を見開いた。
まさか、あれって。
「ウンディーネ…!?」
トウマくんが叫ぶ。
私たちの目の前に現れたその人は、宙に浮いたまま私たちをじっと見つめていた。その表情は冷たく、まるで生気が感じられない。
[……]
水の精霊・ウンディーネ。
綺麗な水色の髪を持ち、綺麗な水色の衣装を身に纏う四大精霊の一人。
しかし今のウンディーネは、全身が水色ではなく黒一色に染まっていた。両手と両足には地面に落ちた鎖と同じ鎖が巻き付けられている。
[っ! おまえは、…おまえ、は……私を、…わた、し、を…っ!]
「え?」
ポツリと声を漏らす。
なんだか様子がおかしい。
「……っ」
「アイシクル、どうした?」
「…いや、急に右目が」
[おまえが私をこんな、……許さぬ、絶対に許さぬ、……ぐ、あああああ!!]
表情を一変させて、ウンディーネは叫ぶ。
そして彼女は手を振りかざし、私たちに向けて魔法を放ってきた。




