柱の中へ
「…とは言ったものの、ほんとどうしよう」
訓練場。柱の前。
眉をひそめながら、トウマくんは腕を組んで考える。
私とアイシクルは、その様子を少し下がったところから見つめていた。
「トウマくん、凄く考えてる」
「あの中に空間があるなんて、未だに信じられないんだけど」
「…ねぇ、アイシクル。本当についてくるの?」
「当たり前だろ。あんな話を聞いたら誰だって気にはなるだろうし。それに、さっきも言ったようにアメリアを放ってはおけない」
「……」
腰に手を置いて、アイシクルは言う。
トウマくんの自己紹介のあと、彼から詳しい話を聞いたアイシクルも"俺も行く"と言って私たちについてくる事になった。
危ないから駄目だ。というのは私にも言える事だからその時は何も言わなかったけれど、そんな事を言われたからとて"じゃあ行きません"なんて簡単に引き下がる人なんてどこにも居ない。自分から"行く"と言って決意した人ならなおさらだ。だけど、アイシクルにはこのまま待っていて欲しかったというのが本音だ。危ないから駄目だとは言えないまでも、彼には危ない目には遭って欲しくない。
「トウマくん、何か思い付いた?」
「…いや、何も」
トウマくんは言う。
彼の隣に立って、柱に触れる。
そこは、ひんやりと冷たかった。
「柱に入れる方法は、今のところ一つしかないんだ」
「黒ゴマが持ってる腕輪?」
「うん。あの腕輪は昔、この柱の中に住んでいた精霊が作り出したものなんだ。腕輪に嵌め込んである宝石が特殊なやつでね。柱に入る唯一の鍵になってるみたいなんだよ」
「へぇ…。物知りなんだね」
「物知りってわけじゃないよ。ただ単に凄く勉強したってだけ」
眉を下げて、トウマくんは笑う。
黒ゴマの持っていた腕輪。頭に生えたツノに付いていた腕輪がないと柱には入れない。強引に入ってしまうという手も使えなくはないみたいだけれど、それにはあり得ないほどの膨大な魔力が必要になるそうで、私たちのような"一般人"には無理なんだそうだ。
「…うーん」
私も、眉をひそめて考える。
こうしている間にも黒ゴマは中で何をやっているのだろうか。早いところ、私たちも中に入らなくちゃ。
「柱を破壊して中に入るのはどう?」
「それはあまりオススメしないかな。柱を壊そうとすると柱に掛けられている魔力センサーが反応して、黒焦げにされる」
「ひぇ。…じゃあ、ポータルは?」
「ポータル? …あれは、一度行った事がある場所へしか行けないから無、…いや、ちょっと待って」
最後まで言いかけて、トウマくんは眉をひそめる。顎に手を添えて何やら深く考え出した彼を見て、私は首を傾げた。
もしかして、おかしな事でも言ったかな…?
「…そうか。この手があった。うん! これならイケルかもしれない!」
「え?」
「ありがとうアメリア! 君のおかげで閃いた!」
「ん?」
一人盛り上がるトウマくんを見て、頭に"?"を浮かべる。危ないから下がってて、と言われてので踵を返してアイシクルのところへ戻った。
そして、トウマくんは足元に魔法陣を描いて呪文を唱える。柱に手を置いて、次に彼はそこにポータルを出現させた。しかしポータルの向こう側は真っ暗で何も見えない。どこにも繋がっていないのか。
「トウマくん、何するの?」
「えと、今から不思議な事するけど、どういう仕組みでやったのとかは聞かないでね。俺もこれは自分でもどうやってるのかあまりわかってないんだ」
「「?」」
トウマくんの言葉を聞いて、私とアイシクルは顔を見合わせる。一体何をするのだろうと思いながらその後のトウマくんの行動を見ていると、彼はポータルの前に手をかざして再び呪文を唱えた。すると、真っ暗だったそこは少しずつ照らされて明るく変化していく。
柱の中が見えているのだろうか。トウマくんの後ろから顔を覗かせると、ポータルの向こう側には洞窟のようなものが見えていた。それを見て、"おー"と声を漏らす。
「…っ、はぁ」
「トウマくん、何したの?」
「ポータルを使って無理やりこじ開けたんだよ」
「無理やり?」
「どうやって?」
「だから聞くなって。俺にも何がなんだかわかってないんだから」
眉をひそめてトウマくんは答える。
本人にもわからない事を私たちが聞いたところで、答えなんて絶対に出ないから、この件はもう終わりにしよう。
「けど、これでもう中には入れるのか?」
「うん。なんとかね」
「黒ゴマはどの辺に居るんだろう?」
「さあ。…でもまだそんな遠くへは行ってないと思うから、うまく行けばすぐに捕まえられるかもね」
「……」
ポータルの向こう側を見つめる。
そこからは、微かに水の音が聞こえてきていた。
+
ポータルから柱の中へ足を踏み入れると、ひんやりとした空気が全身を包み込む。
外よりも涼しい柱の中。周りを見渡してみると、そこには四方を囲むごつごつとした岩壁と奥に進むための道があった。地面には水が溜まっていて、たくさんの白い花がゆらりゆらりと水の流れに身を任せて浮かんでいる。
「ここは、…洞窟?」
「水の洞窟だよ」
「水?」
「ここには、ウンディーネが住んでいるんだ」
「ウンディーネって、四大精霊の?」
トウマくんが出てきたと同時にポータルはバチバチと音を立てて消える。無理やりこじ開けたため構造が不安定だったのだろう。と、彼は言った。
「トウマくん。この洞窟ってどこまで続いてるの?」
「…うーん。どうだろう。柱の中の景色は、入った人の潜在意識を読み取って精霊が作ってるって言われてる。大きさも広かったり狭かったりとまちまちで、精霊の気分次第で色々と変わるんだよ」
「…そうなんだ」
「原理はまったくわかんないけどね」
それと、ここには精霊の他にも魔獣も居るらしい。数は少ないけれど、出くわしたら気を付けてと言われた。
「黒ゴマ、どこに居るのかな?」
「さっきも言ったけど、そんな遠くへは行ってないと思う。ウンディーネの居る部屋に向かう途中で見つかればいいんだけどな」
そう言って、トウマくんは歩き出す。足元にある花を踏まないようにして歩くのは注意が必要。油断していると一つくらいは踏んづけて潰してしまいそうな気がして、気が気じゃない。トウマくん曰く、ここには魔獣が居るみたいだけれど、もし本当に魔獣が私たちの前に現れたらどうすればいいのか。私とアイシクルは武器を持っていないし、トウマくんを見ても武器らしきものは見当たらない。
けれど、いざとなったら魔法で対応っていう手もあるし、武器がなくても一応はなんとかなるのか。
[グオオオオ]
その時、どこからともなく魔獣の咆哮が岩壁に反響して聞こえてきた。




